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大崎上島の交通問題に関する研究―おと姫バスを中心として―

岡山 正人(流通情報工学科)

概要 過疎・高齢化が進む地域では様々な課題があるが,高齢者のモビリティの確保を中心とした交通問題は非常に重要なもののひとつである。ここでは,大崎上島で島民のモビリティの向上を目的に運行されているコミュニティバス,おと姫バスを対象に,島民の意識を分析することで,その運行のあり方,島民による経済的評価,利用促進の方策などについて考察を行った。

キーワード 研究/交通/交通行動/コミュニティバス

1.はじめに

広島商船高専の位置する大崎上島は,人口8,205人(平成25年11月現在),高齢化率(65歳以上の人口比率)は既に40%を越えており,過疎化・高齢化が著しく進んでいる地域である。こうした地域では教育や医療など様々な問題が存在するが,交通問題はその最も重要なもののひとつになっている。大崎上島町でも,こうした交通問題は大きな課題となっており,その対策として主に高齢者のモビリティの確保を目指して,平成17年より「おと姫バス」というコミュニティバスが運行されるようになった。おと姫バスはその運行経費約2,400万円のうち約1,850万円を町の税金で補填することで運行されているが,その妥当性を含め,島民の生活スタイルや利用ニーズとの適合具合など,様々な検討課題を有している。
本研究は,大崎上島の交通実態や島民のおと姫バスに関する意識について分析することにより,利用者の立場から見た今後のおと姫バスへの提言や満足度の向上策について研究しようとするものである。

2.研究内容

図1は,本事業で取り組んできた主な研究内容とその関連について示したものである。これらの研究は主に,島民を対象にアンケート調査やヒアリング調査を実施し,その結果を分析することで進めた。以下では各研究結果で得られた主な成果について紹介する。


図1.各研究の関連
註)数字は記載している節の番号を示している。

3.研究成果

3.1 高齢者を中心とした交通行動および移動意識に関する研究

[1]
この研究では,「パーソントリップ調査による島民の交通行動実態に関する研究」と「高齢者を対象としたモビリティに関する意識構造分析」について研究を行った。
(1)パーソントリップ調査による島民の交通行動実態に関する研究
大崎上島島民にパーソントリップ調査を実施し回収した698票のデータを基に,島民,特に高齢者(65歳以上のもの)の交通実態について分析した。
その結果まず,高齢者では「通院」「娯楽・レクリエーション」目的の交通が多く,特に島外へ出かける際,その30%は通院目的であることが示された。また,高齢者の交通行動は午前中に行われることが多く,「通院」は8時台,「買い物」は10時台に多いことがわかった。さらに図2は,移動目的別に移動所要時間の平均を見たものであるが,この図によれば,「通院」「買い物」目的の移動では,高齢者は非高齢者に比べ所要時間が2倍ほど長くなっている。


図2.移動目的別所要時間

その理由を調べるため利用交通機関について分析したところ,高齢者では非高齢者に比べ「自動車」の利用が少なく,「徒歩」「自転車」「バス」の利用が多くなっており,このことが高齢者の「通院」「買い物」の所要時間が長くなっている理由と考えられた。
以上の結果から,高齢者の移動で,特に所要時間が非高齢者よりも長くなっている「買い物」「通院」目的の移動を如何にサポートするかが課題であることがわかった。
(2)高齢者を対象としたモビリティに関する意識構造分析[2]
高齢者を対象にアンケート調査を実施することで(161票回収),高齢者の生活満足度や,島内におけるモビリティ(移動のしやすさ)の満足度が生活関連施設やサービスなどの満足度に及ぼす影響,さらにはそれらが生活全体の満足度に及ぼす影響について分析した。その結果,約4割の高齢者が生活に満足している一方,3割以上の人が不満を感じていることが明らかになった。
また,SEM(共分散構造分析)を用いて高齢者の意識構造を図3に示すような意識構造モデルで表した。このモデルを詳細に分析することで,おと姫バスなどによるモビリティの向上が,「人との交流」や「医療などの受けやすさ」に繋がったとき,高齢者の生活満足度も向上することがわかった。


図3.SEMによる高齢者のモビリティと生活満足度に関する意識構造モデル

3.2 おと姫バスの利用実態に関する研究

次に,運行データや乗客へのヒアリング結果によりおと姫バスの利用実態について分析した。
(1)運行データによるおと姫バスの利用実態分析
大崎上島町から得た平成19年と平成20年の「おと姫バス」の運行データによりおと姫バスの利用実態について分析した。その結果,おと姫バスの利用者数は,土曜日が最も多く平均約113人となっていた。またその他の曜日では何れも75人前後となっていた。続いて路線ごとに見たところ,大崎方面の路線では約21人/日であるのに対し,木江方面では約80人/日と,大崎方面では著しく利用者数が少なかった。また何れの路線も午後の利用者数より午前の利用者数の方が多くなる傾向があった。
(2)乗客へのヒアリングによるおと姫バスの利用実態分析
おと姫バスの乗客を対象に4日間にわたりヒアリング調査を行った。このヒアリング結果により,乗客の約7割が女性,約5割が70歳代の高齢者で,50歳代以下の乗客はほとんどいないことがわかった。また,利用目的で最も多かったのは「通院」の約4割であり,続いて「趣味・娯楽」の17%,「買い物」の16%であった。
おと姫バスの利用理由では,ほぼすべての乗客が「他に手段がないから」としており,高齢者が移動に苦心している実態が明らかとなった。また,約8割の乗客がおと姫バスに概ね満足していたが,中には「便数が少ない」「フェリーなどとの乗り継ぎが良くない」といった意見が聞かれた。

3.3 おと姫バスに対する島民意識に関する研究

大崎上島島民を対象に行ったアンケート調査結果をもとに,おと姫バスへの不満や運行形態に関する意識,島への貢献度や経済的な価値について分析した。
(1)おと姫バスへの島民の不満項目の分析
島民に行ったおと姫バスの利用意識調査(回収総数約730票)により,おと姫バスの利用状況やおと姫バスのへの不満事項について分析した。
その結果,おと姫バスの利用経験者は全体の6%にも満たないものの,利用経験者には高齢者が多く,高齢者のモビリティの確保と言う意味では一定の成果を上げていることがわかった。
また図4は,おと姫バスに対する不満な項目について見たものであるが,これによれば「バスの便数」「時刻表や経路のわかりにくさ」「始発・終発時間」などが主な不満事項であることがわかった。その一方で「料金」についてはこれらに比べ不満が少ないことがわかった。


図4.おと姫バスの不満項目

(2)おと姫バスの運行に関する島民意識の分析[3]
3.3(1)でも利用したアンケート結果を基に,コンジョイント分析を援用することにより,おと姫バスの運行に関する島民の意識について分析した。その結果を示したのが表.1である。

表1.おと姫バスのコンジョイント分析

この表の「重要度値」から島民が「料金」よりも「便数」の方を重要視していることがわかる。また,「効用値」を使ったシミュレーションにより,現在6便である便数を12便に増加すると,料金を現行の200円から300円にしても,島民の多くが利用する可能性があることがわかった。
(3)おと姫バスの島への貢献度と経済的評価に関する島民意識の分析[4]
おと姫バスの貢献度や経済的な価値を分析するために18歳以上の島民を対象にアンケート調査を行い,その結果(264票回収)から以下のような分析結果を得ることができた。
まず,島民の多くは,おと姫バスは交通手段としてだけではなく,「島のイメージアップ」「高齢者などの送迎の負担軽減」などにも貢献していると考えていた。また,島民のほとんどがおと姫バスを必要と感じており,その主な理由は「将来自分や家族が利用するかもしれないから」といったことであった。
次に,CVMを用いて島民のおと姫バスの経済的価値を分析したところ,一人当たり年平均2,121円,中央値で1,645円であった。なお,この額は他の地域の路線バスの評価や,大崎上島の現状,おと姫バスのサービス水準から考えて比較的高い評価であるものと考えられた。しかしながら,18歳以上の島民全体での支払可能額は現在の約1,850万円という税金投入額よりも少なく,利用者の増加だけではなく,運行費用の面からの見直しも必要であると考えられる。

3.4 おと姫バスの満足度の向上に関する研究

(1)おと姫バスへの時刻表の作成
図4の分析で明らかにしたように,「時刻表がわかりにくい」と言った意見が多かった。そのため,おと姫バスの満足度の向上を目的に,高齢者にもわかりやすい時刻表をA3サイズで作成した。これらは大崎上島町により島のすべて世帯に配布され,島民の方に利用していただいている他、フェリー乗り場や病院など人のよく集まる場所にも掲示している[5]。しかし,おと姫バスの利用者から携帯できるものもほしいといった要望が出たため,この時刻表をベースにポータブルサイズの時刻表を作成した。新しく作成した時刻表は,開いたときのサイズをA2サイズとし,その折り畳み方に「ミウラ折り」を採用することで利用しやすくした。また,利用者から要望のあったフェリーの港への乗り継ぎ情報も掲載した。図5は作成した「ポータブルサイズの時刻表(図は平日側,裏が休日用になっている)」の開いたときの状況を示している。このポータブルサイズの時刻表は、日常でよくおと姫バスを利用している方、約150名に配布し利用していただいている[6]。


図5.おと姫バスのポータブルサイズ時刻表(平日側を示しているページ)

(2)お出かけ案内システム“しまナビ”の開発[7-11]
新たな試みとして,大崎上島住民の外出時に役に立つ情報を提供するためのシステム“しまナビ”について開発を進めている。本システムは,島内の小売店,病院,役場,フェリー乗り場などの施設にタッチパネル端末を置くとともに,島内を移動するおと姫バスなどにGPS受信機および電子掲示板を設置し,それらを島内に敷設された光ファイバ網で有機的に連携させることで,住民が島内外へ出かける際に役に立つ,目的地や施設,利用する交通機関に関するリアルタイムな情報を容易に利用できる環境の実現を目指している。これにより,おと姫バスの利用満足の向上を目指し,さらには利用者の増加を図りたいと考えている。
本システムは,現在のところ本システムで提供する情報を利用者に閲覧可能にする「情報閲覧システム」,および本システムで扱う様々な情報を管理し情報閲覧システムに配信するための「情報管理サーバ」の開発を終えている。今後は「島のイベント情報」や「時刻表の検索システム」など,島民の生活や公共交通を利用する際に役立つシステムを組み入れて行きたいと考えている。

3.5 利用者意識から見たおと姫バスへの提言

以上の結果により,おと姫バスについて以下のような提言をすることができる。
① おと姫バスの島民による経済的評価価値は,現在の税金の投入額よりも低い。そのため,運行形態等を考慮するなど利用者の増加に努める必要があるほか,運行費用の低減についても可能性を探る必要がある。
② 運行形態を見直す際には,料金の設定は重要であるが,便数はそれ以上に重要である。また,「通院」「買い物」の行動を支援できるよう8時から10時の午前中の便を中心に充実させる他,「人との交流」の支援についても配慮する必要がある。
③ おと姫バスへの不満事項には,時刻表がみにくいといった意見も見られた。本研究では,見やすい時刻表の開発や“しまナビ”といった案内システムの開発も行っている。今後は運行形態や効率性だけではなく,様々な角度から利用促進方策を考えていくことも必要である。
以上のような提言は、平成22年度から行われている「大崎上島町公共交通協議会」での議論の参考資料としても利用された。

4.まとめ

以上のように,本事業では大崎上島で運行されているコミュニティバス,「おと姫バス」を中心に島民,特に高齢者のモビリティの改善について研究を行い,いくつか提言できる成果を得ることができた。これらの提言を大崎上島の役場に示し,議論を重ねたいと考えている。本研究で得られた結果は島民の立場から見た,いわゆる要望に近いものもあり,今後は実際に管理・運営している立場からの知見も含めて議論を進めていくことが重要であろう。
これまでの研究では,島内におけるモビリティの改善を中心に行ってきた。しかし,こうした島内でのモビリティだけではなく島外へのアクセスも重要な課題となっている。このため現在,島民の島外への交通行動の実態や大崎上島と本州とを結ぶフェリーや高速船についても研究を進めている。今後はこれらの研究をより深めていくことで,島外への交通のあり方についても様々な提言を行っていきたい。

参考文献
1) 岡山正人:パーソントリップ調査による島内在住者の交通行動実態分析-大崎上島を事例として-, 日本沿岸域学会誌Vol.22No.2,pp.63~76,2009年9月.
2) 岡山正人:過疎・高齢化地域に住む高齢者を対象としたモビリティと生活満足度に関する意識構造分析―大崎上島を事例として-,日本都市計画学会,都市計画論文集,No.43-3,pp.901~906,2008年10月.
3) Okayama.M, Sawai.S. : An Attitude Analysis of Elderly People toward Mobility and Community Bus in Rural Area – Case Study of the Osaki-Kamijima Island in Japan -,
Web- Journal of EASTS (http://www.jstage.jst.go.jp/browse/easts/8/0/_contents), 2010.9.
4) 岡山・高川・安田, 大崎上島のコミュニティバス「おと姫バス」に対する島民の経済的評価に関する一考察, 第30回交通工学研究発表会論文集,CD-ROM, 2010年9月.
5) “見やすく手作り バス時刻表”,中国新聞,平成21年3月25日
6) “持ち運び楽々時刻表 広島商船高専生が作成”,中国新聞, 平成23年3月5日
7) “大崎上島情報案内システム”,中国新聞,平成22年8月18日
8) “交通機関の情報,乗客に配信 広島商船高専が来春着手 地域のイベント情報も,日本経済新聞,平成22年8月18日
9) “大崎上島情報提供システムで島に貢献”,中国新聞,平成22年8月21日
10) 岡山正人・岡村修司・田中康仁・岩切裕哉,“大崎上島のお出かけ案内システム”しまナビ“の開発”,第44回土木計画学研究講演論文集CD-ROM(平成23年11月27日)
11) Okamura.S. Okayama.M, Tanaka.Y, Iwakiri.Y. : Development of Trip Guide System of the Osakikamijima Island, “Shima-NAVI”, Web- Journal of EASTS (http://easts.info/on-line/proceedings/vol9/index.html), 2013.9

(原稿受理:2014年2月 公開日:2014年3月11日)

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