国立広島商船高等専門学校
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防災・安全対策

大崎上島の防災・安全対策に関する研究計画の概要

河村 義顕(商船学科)

概要 大崎上島は少子高齢化が急速に進み,本土及び近隣の島嶼と架橋されていない離島でありながら,比較的面積が大きく,一定以上の人口を抱えているため,災害時に限らず産業基盤及び生活環境に課題を抱えている。
特に2011年(平成23年)に発生した日本周辺における観測史上最大といわれる東日本大震災以降では,市町村レベルで災害に対する対策が根本的に見直されている。大規模災害時の住民の避難,生活支援,医療に関することなど,検討すべき課題が多い。それらに対する対応策を日本全国の各市町村でも検討されているが,離島であり,少子高齢化が進みながら一定の人口を抱えている大崎上島では,広域での連携や外部の支援が物理的に受け入れにくい等,同じ対応策が困難であるケースが多い。
一連の本研究では,行政を中心に,大崎上島の安全安心な社会づくりを地域ぐるみで実施していくための方策を検討していく予定である。

キーワード 研究/防災安全/広域防災計画/災害時の船舶利用/高潮監視

1.はじめに

1.1 大崎上島の概要

大崎上島(おおさきかみじま)は広島県にあり,温暖な瀬戸内海にある芸予諸島に属する島の一つである。面積は38.35km²(国土地理院のデータによる)で広島県内の島では,江田島,倉橋島につぐ面積である。約30年前の1985年(昭和60年)当時,人口14,101人,うち65歳以上の高齢者が占める割合は19.7%であったが,2010年(平成22年)には人口8,387人,うち65歳以上の高齢者が占める割合は43.5%と少子高齢化が急速に進んでいる。
地理的な特徴としては,大崎上島は架橋されていない離島であるため,航路により東広島市安芸津町,竹原市,呉市大崎下島,愛媛県今治市大三島と接続されている。離島は一般的に産業基盤及び生活環境の整備等が他の地域に比較して困難であると見なされるため,1952年(昭和27年)に制定された離島航路整備法を経て,1953年(昭和28年)に制定された離島振興法により,その地理的及び自然的特性を生かした振興を図るための特別の措置が講ぜられてきた。同法は2012年(平成24年)の改正により法律の有効期間が10年間延長され,この中で防災のための財政措置等,財源の確保,特に重要な役割を担う離島の保全・振興に関する事項が謳われている。
大崎上島は行政上では瀬戸内海最大の離島であることから,全国の離島の中でも防災に関する対策が重点課題である。本研究では近い将来起こりうる災害に対し,住民の安全確保や近隣からの支援受け入れ体制,災害の余地を含めた島内の防災システムの検討はもちろん,都市部への支援を含めた広域防災についても研究を計画している。

1.2 想定される災害

災害は,その原因と影響により自然災害と社会的影響が大きな人的災害に分けられる。災害対策基本法によると,災害は「暴風,豪雨,豪雪,洪水,高潮,地震,津波,噴火その他の異常な自然現象又は大規模な火事若しくは爆発その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する政令で定める原因により生ずる被害(災害対策基本法第2条第1号)」と定義しており,同法では自然災害以外の原因による災害も含まれるが,ここでは自然災害を取り上げていくこととする。
大崎上島の地理的及び気象条件より想定される災害は,地震とそれに伴う津波,台風とそれに伴う高潮及び土砂災害があげられる。
まず,地震については,瀬戸内海の安芸灘を震源とする芸予地震が1857年,1905年,1949年,2001年と約50~100年周期で発生しており,また,四国の南の海底にある水深4,000m級の深い溝(トラフ)を震源とする南海トラフ地震(図1)が1707年,1854年,1946年と100~150年周期で発生している。これらの地震による津波の被害は,大崎上島ではほとんど報告されていない。
次に,高潮についてであるが,その原因は台風や低気圧の接近に伴い気圧の低下と吹き寄せによるものである。また,2011年(平成23年)9月では台風接近による潮位上昇と水温の高い海水の流入による海面の膨張が重なったため,台風通過後でも潮位の上昇が継続された例もある。
いずれの災害にしても,大崎上島ではこれらの災害による過去の被害は軽微であったが,沿岸の低位部に民家が多く集中していること,高齢者が5割近い人口構成という事情を考えると二次被害による被害が懸念される。

2.事業内容

本研究を始めるにあたり,大崎上島町へのヒアリング,校内でのワークショップを通じて,大崎上島町の安全・防災の領域に関する意見を抽出した。抽出した結果を以下に示す3つのテーマに分類し,それぞれの目標を設定した。

2.1 大規模災害時の避難場所及び避難ルート

本テーマでは,災害が発生した際における住民の避難と被災生活について取り上げる。大崎上島は高齢化が進んでいる地域であることから,一般住民はもちろんであるが,災害時要援護者に対するケアを十分に考慮する必要がある。そこで,本テーマでは3つの項目について取り上げる。
(1)災害時の避難ルートと避難場所の見直し
大崎上島町地域防災計画に避難計画及び避難方法が記されているが,災害の規模に応じた具体的な方法についての記述が少ない。そこで,災害の発生から避難までのフローやそれぞれの役割などを見直す。また,現在指定されている避難場所が危険区域にある所があるので,それらの見直しも並行して進める。
(2)災害時要援護者に対する避難及び被災生活の支援
災害時要援護者とは高齢者,障害者,乳幼児,妊婦,傷病者,日本語が不自由な外国人といった災害時に自力で避難することが困難な人のことをさす。大崎上島では高齢者が多いことから,災害時要援護者でも安全に通れる避難ルートの確保と避難訓練,避難サポート及び被災生活での支援者活動を含めた避難行動を計画する必要がある。
(3)備蓄品及び保管場所
災害時に使用する備蓄品をストックしておく倉庫は災害対策の要であり,地域住民に対する安全・安心社会のバックボーンでもある。住民数を確保するだけでなく,人口構成を考慮した備蓄品も考慮に入れて準備する必要がある。

2.2 島嶼地域における船舶を活用した大規模災害時の対応

大崎上島町は,一定程度の人口のある架橋されていない離島であるため,大規模災害時の住民の避難,生活支援,医療対策に課題を抱えている。その際の住民避難及び最低限の物資輸送,あるいは避難生活支援のため,被災を免れた港湾施設と小型フェリーの利用が有効であろうと思われる。そこで,船舶を活用した災害時の対応及び災害軽減の視点から,次の3つの項目について研究する。
(1)災害時の緊急通信体制
災害発生時においては,通信による情報伝達が重要である。そのための防災行政無線の活用や携帯端末による情報伝達方法の検討を行う。
(2)緊急医療体制と機器提案及び整備
災害発生時における緊急医療体制を整えることは,住民にとっては非常に重要である。現代医療では電気と水道の確保が重要であり,一時的でも陸上の支援なしでそれらを利用できる船舶の活用を検討する。
(3)住民の一時生活支援
瀬戸内海を航行する大型フェリーまたは旅客船(図2)を活用することで,住民の一時生活支援を行うことができる。そのための体制の整備及び委託協定に関する検討を行う。
(4)大規模災害時の練習船広島丸の活用
災害時において,行政機能がマヒした状態が長く続くことは災害時要援護者にとって深刻なダメージとなる。
そこで一時的でも災害対策本部(図3)など,一部の本部機能移転の可能性について検討を試みる。特に,大規模災害時において本校が所有する校内練習船(図4)の活用可能性等について検討を行う計画である。

2.3 高潮監視システム

大崎上島をはじめとする島嶼地域では,海岸地域に多くの民家が集中しているため,ひとたび大規模な高潮が発生すれば,甚大な被害を受けることが予想される。そのため,潮位を常時観測することで高潮の監視を行い,非常時には災害情報としてその情報を伝達及び周知するシステムの構築が必要である。
本システムは,本校の練習船「広島丸」に搭載したGPS受信機を利用し,潮位に応じた高さ方向の船位の変化を計測及び解析することで潮汐の観測を行うものである。津波も潮汐と同様の性質を持つ長周期波であるため,このシステムを利用することで津波発生を監視することが期待できる。

3.研究の進捗状況

3.1 大規模災害時の避難場所及び避難ルート

大崎上島町地域防災計画及びハザードマップを精査し,問題点を①避難計画(避難方法・避難ルート・避難場所)②災害時要援護者③災害情報④災害備蓄品に分け,31件の問題点を抽出した。抽出した問題点の多くは地域防災計画では確認できないものが多いため,今後は現地調査を中心に調査を進めていく。

3.2 島嶼地域における船舶を活用した大規模災害時の対応

現在,各項目についての課題を関連機関に問い合わせ,船舶利用の可能性について調査を行っている。

3.3 高潮監視システムの開発

本システムは,GPSにより得られる高さ方向の位置情報を解析することで,潮位の観測を行なうものであるが,高さ方向の位置情報には比較的大きな誤差が介在している。そこで,誤差の補正手段の開発のために,船体の姿勢計測装置を整備して,性格な潮位の観測ができるシステムの開発を計画している。

4.今後の課題と研究計画

4.1 大規模災害時の避難場所及び避難ルート

(1)災害時の避難ルートと避難場所の見直し
大崎上島町地域防災計画及びハザードマップを精査し,抽出した問題点についての現地調査を実施し,実態の把握を行う。可能であれば,大崎上島町地域防災計画及びハザードマップの修正箇所とその改訂案を提示する。
(2)災害時要援護者に対する避難及び被災生活の支援
災害時要援護者に対する避難及び被災生活の支援の検討については,将来的には本校の学生ボランティアによる支援も検討している。しかしながら,学生の安全確保を最優先に考える必要があるので,一般ボランティアの受入体制を中心に考えることとし,学生ボランティアありきで進めないように配慮する。
(3)備蓄品及び保管場所
備蓄品については各家庭で3日分の確保を想定しているが,各家庭で備蓄されているか否かの確認が取れていない点と,大崎上島が離島であるため,災害後の物資の供給が本土に比べて復旧が遅れることが想定される。よって,備蓄量を3日から引き延ばすとともに,人口構成から必要な備品のリストを見直すことが今後の課題となってくる。

4.2 島嶼地域における船舶を活用した大規模災害時の対応

船舶利用については連携すべき機関との調整が多く,現状ではっきりした見通しはついていないが,大崎上島町に災害対応時の積極的な提案を行う予定である。

4.3 高潮監視システム

第一段階として広島丸にGPS受信機を搭載し,潮位に応じた高さ方向の船位の変化を計測及び解析する観測実験を行なう予定である。次に大崎上島町の木江地区にある潮位観測所で観測されるデータにより,広島丸で観測されるデータを補正し,より精密な潮位の計測を実現するシステムを構築する。
最終段階としては,本校を基準局とし広島丸を移動局とした情報通信システムを構築し,観測される潮位をリアルタイムでモニタリングし,高潮の監視を行なう。また地域防災に寄与するため,公共機関と連携し,非常時における情報発信の体制を構築する計画である。

(原稿受理:2014年2月 公開日:2014年3月14日)

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