国立広島商船高等専門学校
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船舶を活用した災害対応

島嶼地域における船舶を活用した大規模災害時の対応について

大野遼太郎(広島商船高等専門学校),水井 真治(商船学科),
諌山 憲司(広島国際大学),河村 義顕(商船学科),
三村 竜也(大崎上島町役場)

1.背景

南海トラフ地震は,静岡県の駿河湾から九州東方沖まで続く深さ約4,000メートルの海底のくぼみがあり,プレート内の断層活動により発生する地震とされている。同地震の発生確率は30年以内に70%の確率で発生すると予想され,震度はマグニチュード9クラスの巨大地震が発生する可能性がある。南海トラフ地震による日本全体の被害予想は最悪のケースで,死者が32万3,000人,負傷者が62万3,000人の死者・負傷者が発生し,経済被害総額は220兆円と東日本大震災の10倍もの被害が予想される。停電や倒壊,断水によりさらに多くの人が住む場所が無くなることや食料・水不足などの2次災害も考えられる。
広島県全体での南海トラフ地震による震度は少なくとも6弱から6強の地震が起こり,死者約14,759人,負傷者22,220人,建物の全壊棟数は69,561棟,被害合計は,12.6兆円と想定される。また,広島県大崎上島における南海トラフ地震での地震と津波の被害想定は次のようなことが想定される。死者・負傷者・要救助者・帰宅困難者は,死者35名,負傷者は死者の約10倍の354名,要救助者29名,帰宅困難者309名である(大崎上島の人口約8,200人)。同島建物は,全壊810棟,半壊2,928棟という被害予想が挙げられている。同島は橋が架かっていないため,物資の輸送,人の移動はすべて船舶に頼っている。被災時には唯一の輸送手段である船舶を効率よく活用しなければならない。

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そこで,南海トラフ地震等の大規模災害が発生した際に船舶の活用が期待できる項目を表1に整理した。

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2.目的

本研究における対象項目は,以下3項目とした。
① 島内住民の島外避難及び物資輸送のための方法
② 緊急医療体制と最小限の緊急物資の準備
③ 災害時の緊急通信体制

①被災時に効率的に,迅速に救援活動を行うため,活用可能船舶情報と港湾,岸壁設備の基礎情報を整理したマッチングシステムの開発を行った。
②の緊急医療体制と最小限の緊急物資の準備については,災害時に自力で病院に行けない場合や,災害により病院が機能してない場合に備え,被災者の医療活動を支援する体制を整えておく事が大切である。また物資を事前に貯蓄しておくことで災害時の物資不足を回避することができる。そのための備蓄用コンテナの設計を行った。
③の災害時の緊急通信体制については,地震に伴う津波の到達しない高所に既存の地上,地下通信網とは独立した基地局を設置し,緊急時においても通信を可能とする体制を検討した。

3.島内住民の島外避難及び物資輸送のための方法

一般的に,交通ルートの安全が確立され,輸送媒体に問題がない場合において,災害時における人や物資の輸送は陸路においては鉄道やトラックやバス,空路においてはヘリコプターや航空機,海路においては船舶が輸送手段として活用される。しかし,島内住民の移動手段や物資の輸送手段が船舶に限られることは先述のとおりである。また地震や津波等の影響でそれらの船舶や港湾施設が使用不可能になる可能性があることも考慮しなければならない。災害時の孤立を避けるためには,唯一の輸送手段である船舶を効率よく,迅速且つ的確に活用することが大切である。
そのためには災害前から活用可能な船舶と協定を結び,さらにその船舶に対応した船員と港湾施設がすぐに把握可能なマッチングシステムを提案している。提案するマッチングシステムは,3つのデータベースより構成される。すなわち岸壁数や長さ,水深等のデータを組み合わせた港湾データベース,輸送貨物や船舶設備等のデータを組み合わせた船舶データベース,船舶所有者,船舶検査履歴等のデータを組み合わせた船舶検査情報データベースの3種類を一つに組み合わせるシステムである。大規模災害発生時,直ちに状況把握の後に条件に適合する船舶を特定するためのシステムである。マッチングシステムの概念を図2に示す。大崎上島に適用可能なマッチングシステムの開発を行った。

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4.防災・減災医療体制と最小限の緊急物資の準備

持続可能な社会は「環境の質」「社会的平等」「生活の質」「災害への抵抗力」「経済活力」「参加型プロセス」の6原則によって成り立つ。この状況を図3に整理した。
コミュニティーの持続にはそれぞれが必要不可欠ではあるが,本研究ではその一つである「災害の抵抗力」に着目し,災害前から対策を行い防災,減災に繋げる。すなわち,災害に対する脆弱性を強化することにより災害リスクを減らすというものである。輸送手段が船舶を用いた海上輸送に限られる離島の大崎上島において,災害時に外部からの支援を受けることができない状況になった場合に,直接被害のほか関連死を防ぐことも重要である。関連死の対策として,我々は被災者への応急処置や初期医療用備蓄品等緊急物資を保管した倉庫の設置を提案する。

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5.大規模災害時の緊急通信体制

被災による地上,地下通信網の断裂に伴う通信障害は過去の災害から見ても不可避の現象であり,よって災害時の通信は地上の設備の依存度の低い,衛星通信を用いた緊急通信体制を整備することが最善の対策と考える。
我々は地震による津波の到達しない高所に既存の地上,地下通信網とは独立した拠点となる基地局を設置し,緊急時においても通信を可能とする体制を提案する。その概念を図4に示す。

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5.まとめ

大崎上島は,本土を結ぶ媒体が船舶のみの完全離島である。特殊な環境における大規模災害の対策として,本研究における3つの大分類項目について提案を行った。
大規模地震が発生した際に被る可能性のある被害項目の因果律流れ図等を検討した。地震発生から始まり,様々な要因により死傷者を発生させる。提案した対策が加わることにより,被害を軽減することができるのではないかと考える。
本研究は,災害対策対象を広島県大崎上島における災害対策適用例として,実用化を図ったものであり,各分野での離島問題の対策の参考になれば幸いである。

(公開:平成28年5月)

 

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