国立広島商船高等専門学校
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災害時の避難場所・ルート

大規模災害時の避難場所及び避難ルートの検討

河村 義顕,木下 恵介,茶園 敏文(商船学科)
三村 竜也(大崎上島町役場)

概要

本校が所在する大崎上島は,国土地理院のデータによると面積が38.35km²と,広島県内の島では江田島,倉橋島につぐ面積である。2010年(平成22年)の国勢調査では人口8,387人,うち65歳以上の高齢者が占める割合は43.5%と,全国平均と比較しても少子高齢化が進んでいることがわかる。
この大崎上島で想定される大規模災害をあげると,台風による高潮・土砂災害と地震,それに伴う津波による損害である。近年に発生が予想されている南海トラフ地震は,その予想される被害が大規模かつ広範囲であることから,自治体規模で防災マニュアルの見直し等が進められている。なお,大崎上島での被害については,震源より遠ざかった瀬戸内海中央部に位置しているため,震度M6,最大津波高4m,発生した津波の到達最短時間368分と,震源に近い四国南岸域と比較すると,地震や津波による直接的な被害は軽微であると予想されている(広島県危機管理課調,平成25年3月)。

キーワード 研究/防災安全/広域防災計画・ハザードマップ・GIS

1.事業内容

大規模災害が発生した際,特に配慮を要する高齢者,障害者,乳幼児等の災害時要援護者(以下,要援護者と記す)は危険を察知できない,あるいは危険を知らせる情報を受け取っても適切な行動がとれないことも懸念されるため,最優先で避難する必要がある。しかし,大崎上島は少子高齢化が進んでいるため,災害発生時の高齢者及び車いす利用者等の災害時要援護者の避難誘導や補助に多くの人員と時間が必要となる。そのため,初期初動が遅れるだけでなく,避難行動も円滑に進行できない可能性が高い。
そこで,本研究では大規模災害時における要援護者に対する避難支援をテーマに,以下の項目について検討を行っている。
(1) 大規模災害を想定した避難マニュアルの考案
(2) ハザード情報表示ツールの作成と避難ルートの検討
(3) 地域住民を含む広域避難訓練及び防災啓蒙活動の実施

2.成果

(1)大規模災害を想定した避難マニュアルの考案

一般的に実施されている避難訓練は被害の範囲が限定的かつ一時的であるため,訓練の内容は避難経路の確認が主である。そのため,現行の学校や学生寮の災害対応マニュアルも,大規模災害のように被害が一定期間持続し,学生の生存確認もままならない状況は想定していないため,災害の規模によって変化する状況に対応することが困難である。
そこで,学生や寮生の防災に対する意識と知識を高めるため,Fig.1に示す携帯しやすい折り畳み式のマニュアルを作成した。このマニュアルの特長は学生が通学途中あるいはクラブ活動中など,学生の日常を想定して作成しているため,いつどこで災害が発生しても学生の安否を確認できることである。なお,マニュアルには避難の手順だけでなく,生存報告の手順や負傷時の応急手当の方法,避難時にあると便利な道具のチェックリストを記載するなど,被災時に役立つあらゆる情報を盛り込んでいることも特長の一つである。

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Fig.1 作成したマニュアルの一部

(2)ハザード情報表示ツールの作成と避難ルートの検討

特に少子高齢化が進んでいる地域では,要援護者の避難誘導や補助に多くの人員と時間が必要となるため,初期初動が遅れるだけでなく,避難行動も円滑に進行できない可能性が高い。また,一般的なハザードマップは危険区域や防災拠点,避難場所などを示しているに過ぎないため,高齢者及び車いす利用者等は建物や沿道の塀が倒壊して通行できない事態も考えられる。
そこで,本研究では,特に援助が必要な高齢者及び車いす利用者等の避難を想定し,DIG手法を取り入れたハザードマップを作成した。
DIGとはDisaster(災害),Imagination(想像力),Game(ゲーム)の頭文字をとった災害想像ゲームの略であり,自衛隊で行なわれる指揮所演習(CPX)を防災訓練または防災対策の検討に応用したもので,1997年に考案された。DIGの特徴は地図上に自然や市町村の構造,災害時に利用できる地域の人的,物的防災資源や防災施設,災害時に危険となる箇所を記入したシートを重ね合わせることで,ハザードの存在する区域や災害時に有効な施設の存在などが視覚的に把握することができることにある。また,住民がこの地図を作成するため,自分たちの住む場所における災害時の潜在的危険箇所を再確認し,意識を共有できることから,地域防災に対する意識啓蒙活動として取り入れられている。当初,必要な情報の追記・修正ができるよう,一般的な画像加工ソフトウェアのレイヤー機能を利用したハザードマップを作成した。作成するにあたり,避難経路の安全については実際に現場を見て検証する必要があると考え,1)道幅2)道路沿いの塀やブロック塀の存在3)急傾斜地が隣接している場合はその整備状況を確認した。1)については救急車両及び緊急物資運搬車輌の通行可否を判断するため,2)及び3)については地震により避難経路としての使用可否を判断するため調査を行い,これらについてもコメントを表示できるようにした。Fig.2にその一部を示す。

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Fig.2 作成したハザードマップの一例

作成したマップはローカル端末でしか表示できないため,利用に限度があった。そのため,オンラインでも利用できるよう,地理空間情報を活用したGISと呼ばれる,地形図や航空写真などの地図に対して,経緯度や住所,人口や交通状態等,特定の情報を関連させて表示するサービスを利用した形態に改良することとした。
GISは防災の分野でも利用が進んでおり,企業や自治体において1)被害の想定,2)防災訓練の実施,3)物資・資機材の備蓄・整備・点検,4)避難施設・防災拠点施設の検討,5)避難経路・避難方法の検討が行われている。同島の所在する広島県の防災WEBでは,オンライン上で土砂災害の危険箇所と高潮の浸水区域を知ることができる。ただし,これは土砂災害の危険箇所と高潮の浸水区域を表示しているのみであるため,要援護者の避難に必要な情報が不足している。
そのため,本研究ではフリーソフトであるQGISを利用し,地図上に避難所などの情報を付加したハザードマップを作成した。Fig.3はQGIS上で示した大崎上島のハザードマップである。

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Fig.3 QGIS上で表示した大崎上島のハザードマップ

現在作成中のこのハザードマップでは,以下の○を付加している項目について表示することが可能である。なお,項目の前に△が付加している項目は未実装の項目であり,今後も改良を進める予定である。
a) 自然条件
○水涯線(海岸線)及び河川
b) 町の構造
○主要道路
△広場・公園・オープンスペース(学校・神社・仏閣,田畑,空き地等)
c) 地域の人的,物的防災資源
△市町村役場(出張所)・消防署・警察署
○学校・幼稚園
△医療機関(病院,医院)
△ヘリポート
d) 防災施設
○避難施設
△防災倉庫
△可搬ポンプ・消防水利(防火水槽,街頭消火器,プール)
e) 転倒・落下・倒壊した時に危険となる施設等
△危険物の貯蔵施設など
△ブロック塀,石垣など
△屋外広告物,自動販売機
f) 危険箇所
△地震により倒壊するおそれがある建物
△想定されている津波危険予想地域
○土砂災害危険範囲

3.まとめ

同島人口8,000人に対し,本校の教職員及び学生が約800名であり,うち約500名が同島に居住している。これは,同島の昼間人口の約1割に相当しており,少子高齢化が進んでいる同島では大規模災害時における避難誘導や被災生活のサポート等,重要な役割をこなせる体力を持つ学生らの働きに期待する声は高い。しかし,学校としては学生の安全確保が最優先となるため,学生らの避難支援活動を常にコントロールする必要がある。
また,本校の学生と住民との接点が希薄であるため,日頃からコミュニケーションを深めていなければ,スムーズな活動は望めない。現在,COC事業など様々な地域活動を通じて,学生が地域に関心を持ちつつある。今後は,地域住民,とりわけ要介護者の方も参加できるような広域避難訓練を実施し,地域防災力の向上に努めていく所存である。

(公開:平成28年5月)

 

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