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大崎上島の移住・定住

大崎上島の移住・定住を増やすための方策(提言)

長谷川 尚道(地域連携コーディネータ),取釜 宏行(NPOかみじまの風)

概要 大崎上島の移住者はここ数年で100名を越えている。これは県下では尾道市に次いで多い数である。その要因と課題については平成26年度の成果報告で述べた。(P69~P74)特に訪れた人の滞在の長短に関わらず出て行った人を,受け止めきれなかったことの悔いを明らかにする必要性を述べた。また,年々増え続ける移住者に対応するには新たな問題も生じている。移住者への住宅ニーズに質量ともに対応しきれていない。子育て世代の移住にも教育環境等様々な施策が求められていると思われる。一方新しいライフスタイルを求めて田舎に移住したいといった人も現れるなど新たなニーズも出てきている。働き場所の選択肢の拡大と併せて新しい定住促進のための提言をめざす。

キーワード 離島/定住促進/新しいライフスタイル

1.はじめに

【大崎上島の現況】
広島県大崎上島町は,瀬戸内海の中心にある芸予諸島の一部,大崎上島にある風光明媚な地である。橋は架かっていないが,本土とのアクセスは,フェリーが1日に竹原から32往復,安芸津から16往復と比較的恵まれている。また,瀬戸内海特有の温暖な気候で,年間を通して過ごしやすい地域である。歴史的に,大崎上島は海上交通の要衝として発展し,古くから製塩業や造船・海運業が営まれ,人と物と文化が集まり,殷賑を極めた時代もあった。こうしたことから島の産業構造は,他の島ではあまり見かけない工業と柑橘類を主要作物とする農業を中心に多様な産業が融合した形態となっている。
ところが,近年この島も他の島嶼部と同様に過疎化や少子高齢化が大きな課題となっている。統合計画策定に当たってのアンケート調査に拠れば島民は「若者にとって楽しく,多くの人が移り住み,観光客でにぎわう島」であってほしいと願っている。
この意向を踏まえ大崎上島を活性化させるためには,前に述べた多様性に富んだ島の資源を前面に打ち出し,まず交流を盛んにし,定住人口を増やしていく方策を立てることが肝要と考える。

2.NPO法人かみじまの風が提案した企画書の概要

2.1 島民こぞって「町の肝煎り役」発掘・育成事業の提案

○本提案については企画書作成及び本項末尾の補助申請の作成に報告者も参画した。
【内容】
○島嶼部共通の過疎化少子化に歯止めをかけ,町民が描く将来像「若者にとって楽しく,多くの人が移り住み,観光客で賑わう島」を目指す。
○そのため,大崎上島にI・Uターン者が訪れやすい環境を提供するため「働くところ」「住むところ」を確保する。
○そして,この情報を島外の人々に発信する。
○具体的に移住を考えている人に島暮らしを体験(お試し住宅等)してもらう仕組みづくりをする。
○島内に島暮らしの素晴らしさや楽しさを伝え暮らしのケアをする人「町の肝煎り役」(定住促進コーディネータ)を置く。
(平成24年度 かみじまの風「移住・定住による地域活性化支援事業」地域活性化センター助成により実施)

2.2 事業の概念図

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2.3 島民こぞって「町の肝煎り役」発掘・育成事業提案の成果

【NPO法人の取り組み】
①定住を希望する人に対して田舎暮らし,島暮らしの良さを伝え,世話もしている「肝煎り役制度」(定住促進コーディネータ)を設けた。
②古民家を改装し,I・Uターン希望者向けに滞在型体験住宅(おおにしの家他)の設置
③大崎上島町内雇用促進のための仕事紹介
④コーディネータをNPO法人等関係機関で支える体制づくり(研修会等の実施)
⑤定住促進専用のホームページ『大崎上島定住促進プロジェクト』開設
【町の取り組み】
①大崎上島定住促進プロジェクト(定住促進支援組織)を立ち上げた。
②平成25年4月1日より町で「大崎上島町定住促進支援事業実施要綱」を制定し,「定住アドバイザー」(定数:3人以内)を置き,定住希望者等の相談窓口や新生活に関する情報の提供ができるようにした。
③平成26年4月1日定住促進用住宅として,3日~3ヶ月賃貸専用の「トライアルハウス大串」2棟建設し,供用開始している。
④平成25年度以降移住してきたI・Uターン者による情報交換,親睦団体もかねた組織も結成されて移住促進や受け入れに一役買っている。
【結果】
○移住・定住者は,平成23年度以降114名となり格段の伸びを見せている。
○移住者の属性類型は概ね下記の通りとなっている。

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2.4 島民こぞって「町の肝煎り役」発掘・育成事業からの受け入れ側の課題

(1)本事業を進める上で「古民家借り上げ契約」,「民家管理委託契約」,「古民家使用約款」など民間の空き家を活用する法的仕組みづくりが重要であること。(法整備の必要性と運用基準の取得)
(2)空き家があってもすぐに住める住宅が意外に少ないこと。
(3)子供連れの移住希望者が少なかったが,子育て支援への行政を含めての配慮が定住の決め手となる。
(4)移住者の求める定住条件は多様であり,自分にとって理想的な生き方の実現ができることを期待して決める。
(5)移住者のライフスタイルバリューに応えられる町づくりを目指す。
(6)大いなる田舎(田舎らしい田舎)の実現で人の流れを変える意気込み。

3.新しい定住条件の考察

3.1 他市町村の定住促進の施策事例

先進的事例として大崎上島町の例を述べた。その他にも市町村では特徴のある施策で移住者を受入れている。以下一部を列挙する。
(1)持ち家・新築・中古住宅等購入費定住助成(例:佐賀県多久市他)
(2)移住者を対象に空き家改修助成(例:鳥取県鳥取市他)
(3)受入れ地元住民増改築奨励金の給付(例:兵庫県養父市)
(4)定住促進賃貸住宅家賃補助(例:鹿児島県大崎町)
(5)新規,I・Uターン者就労奨励金(例:兵庫県養父市他)
(6)婚活支援,ブライダルアドバイザーの設置(例:山形県鶴岡市他)  など

3.2 新しい定住(移住)スタイルの芽生え

(1)移住者のライフスタイルバリューに応えられる町づくりを目指せるか。(ライフスタイルバリューの高い町の条件とは)
①自分のライフスタイルを実現できる
②教育環境が整っている
③受入れてくれる土壌がある ④文化的な魅力がある
⑤コミュニティがとりやすい ⑥医療面の安心 ⑦仕事を起業しやすい
⑧住んでいる人が良い など
(2)新しい定住(移住)スタイルの芽生え
①自分にとって理想の生き方を実現するための条件の整った場所を選ぶ人が移住し始めている(マズローの欲求段階説の最上階)。
②1箇所に住むことに拘泥せず,複数の拠点をもって仕事する人
③仕事も複数の仕事をこなす人,都市部で活躍しながら田舎でも活躍できる人
④これまでの移住が「固定的」であったのが移動を自由にする人
⑤自立心が旺盛で行政や他人に依存することなく能動的に動く人
⑥町おこしや町民のために貢献することに喜びを感じる人
※移住者の価値観の違いを受入れる大らかさは定住条件の大きな判断基準
(3)町の定住促進の施策考察のヒント
①政策(町づくり・定住促進)は人(移住者・住民),もの(空き家等),金(資金)をダイナミックに動かすことで達成が可能となる。
②「産学金官民が連携して地方の経済を牽引せよ」となっている。定住促進もこの連携方式は使える。
③大崎上島町は何を選択肢として提供しようとするかの方向性を定める必要がある。

4.まとめ

(1)本年度事業として,検証のためのインタビュー,アンケート等を実施し精度を高めていく予定である。
(2)特に新しい定住(移住)スタイルは移住者にとっての条件であり,受入れ側の意向も調査したい。
(3)平成27年10月15日,総務省の平成28年度予算概算要求の中で「地方への新しい人の流れをつくる:地方移住支援」にわずかであるが予算化している。小さな自治体にまで回ってくるかは疑問だが,施策メニューを用意しておくことは可とすべきである。
(4)定住促進の施策事例は移住者が移住先を選ぶ上での判断基準となると同時に,施策メニューは受け入れ側が求める人の条件提示ともいえる。
(5)島をアピールし,訪れる人がワクワクする場面をたくさん創りたい。

(公開:平成28年3月)

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