国立広島商船高等専門学校
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離島の健康支援

離島地域での健康支援を目指した身体機能計測
― 日常生活動作(ADL)に関連した機能観察からの検討 ―

岩井 一師,柴山 慧(一般教科)
松島 勇雄,穆 盛林,芝田 浩,大和田 寛(電子制御工学科)

概要

内閣府の平成27年度版高齢社会白書によれば,我が国の高齢化率が26.0%であり,高齢化率21%を超える超高齢社会となっている。高齢者の健康問題は今度もますます重要性が高くなる。本COC事業を実施している大崎上島の高齢化率は45.4%(2015年)と非常に高い状況にある。このような離島地域にあるものの,健康づくりやその支援があることで健康の維持増進は十分に期待できるであろうと考えられる。離島地域という環境上の特性から高齢者における日常生活動作(ADL:Activity of Daily Life)に関連した機能観察をすることによって,健康状態を検討することは必要である。
社会の豊かさを観察する方法のひとつに,QOL(Quality of Life:生活の質)があげられる。QOLはADLとも関連しており,一般論として,ADLが高ければQOLが高くなり,逆にADLが低ければQOLも低くなる傾向にある。また,高齢者は加齢により,筋肉量が低下し,筋力または身体能力が低下するサルコペニアとなる。さらにサルコペニアが進めば,高齢者では運動器およびその機能に障害が複合的あるいは連鎖的に生じるロコモティブシンドローム(ロコモ:移動能力の障害)に陥る。特に高齢者の転倒・骨折は入院して寝たきりになれば筋肉の減少をはじめ,加速度的に移動能力が低下して日常生活に復帰することが非常に困難になるといわれている。つまり,ロコモは高齢者のADLもQOLも低くするのである。
そこで,本COC事業を通じて,大崎上島における高齢者の健康支援を実施するために,ADLに関連した身体機能計測を実施して,その身体機能計測から離島地域での健康関連における具体的な課題は何か,また,それを解決するための方策は何かということを検討・模索していきたい。

キーワード 離島/健康づくり/生活/歩行

 1.はじめに

離島地域では,すでに著しい人口減少が先行しており,高齢者の日常生活を支援する家族・地域住民も減少している。高齢化はそのような状況を一段と厳しくしており,生活基盤を脅かす要因である。高齢者にとって,健康は最も重要な課題である。交通不便で,低位社会で暮らす離島高齢者が自立した生活を送り,健康で,元気で豊かな老後を過ごすために何が必要であるかを検討することは社会的な意義も深く,重要である。その大きな柱の1つにQOL(Quality of Life)の充実・向上がある。
現在,日本が置かれている,高齢者が増加する社会には多くの課題がある。逆にいうと,その課題の1つ1つを解決していくことにより,将来の多くの先進国が迎える,高齢者人口増による課題に適応する新しい社会システムの構築の好事例となる。超高齢社会(総人口に対して65歳以上の高齢者人口が21%を超える社会)に伴う諸課題が先行して,かつ顕在化している離島における高齢者のQOL充実・向上は今後の日本社会,ひいては世界の近未来の高齢者QOL向上に関係する先駆的な取り組みとなることを期待する。そのような目的のため,離島高齢者自身が,身体的,精神的な健康度を認識して,自らの健康を維持・向上することにより,離島の豊かな自然の中で生活して,ゆったりと充実した老後を過ごすことができれば,住み慣れた家や地域で安寧に老いることができる。
健康の定義について,WHO憲章(その前文)の中で「健康」(途中省略)について「肉体的にも,精神的にも,そして社会的にも,すべてが満たされた状態」(日本WHO協会訳)であると規定している。本論では,健康は「身体的,精神的な充実が相互関連しており,両者はそれぞれ,およびそれらが関連した総合的なものである。」と考える。
高齢者は加齢により,筋肉量が低下し,筋力または身体能力が低下するサルコペニアとなる。更に進めば,サルコペニアにより転倒・骨折の危険性が増し,自立した生活が困難になる大きな要因となる。高齢者では運動器およびその機能に障害が複合的あるいは連鎖的に生じるロコモティブシンドローム(移動能力の障害)に陥る。特に高齢者の転倒・骨折は入院して寝たきりなれば筋肉の減少をはじめ,加速度的に移動能力が低下して日常生活に復帰することが非常に困難になるといわれている。大崎上島町では,そのような状況を防ぐため,バリアフリー住宅助成1),または公的機関による支援器具貸し出し制度2)を充実させている。
ADL(Activity of Daily Life)は,健康・福祉・介護の分野では一般的に「日常生活動作」とされている。日常生活で必要とされている食事や排泄,移動や入浴等の基本的な動作が他者の支援なく可能なことである。QOLの基本はADLが可能な状態であると考える。ADLが可能な身体機能であるためには様々なことが関連付けられるが,本報告書ではADLの基礎となる機能として①足指筋力,②立位姿勢,③歩行(速度,歩幅)であると位置づけて身体計測を行う。
本報告書では,その機能計測したデータを評価してQOL充実・向上のための検討資料とし,地域別,性別,年齢別,就労形態別(職業・農業他),生活様式による系統的な検討を行う。それらの身体機能計測から離島地域での健康関連における具体的な課題は何か,また,それを解決するための方策は何かということ検討・模索していきたい。

2.身体機能計測の各項目内容と成果

2-1 足指筋力測定

足指筋力を足肢筋力計(武井機器工業㈱,T.K.K.3364,図1)で行う。足肢筋力計は最大筋力を計測できる(ピークホールド機能)機能がある。計測するときには,椅子に座り,足指筋力を正確に計測するために足に力をかけたときに計測器あるいは体が移動しない姿勢をとる。
足指筋力は高齢者の転倒に深く関連しているといわれる3)。また,立位姿勢,歩行に重要な役割を果たしていることが知られている3)。足指筋力は足の指の力を握力計と同じ要領で計測することができる(図1)。その主な働きをするものとして足底腱膜(そくていけんまく)があり,足の親指の付け根からかかとまでアーチを作るバネのように張っている腱組織で,足の底面を筋肉とともにアーチを維持するために働いている。また,足は心臓から最も遠い部位であり,血液の悪い成分が溜まりやすいようである。また,足の裏には身体の各機関や各部位につながっている抹消神経(まっしょうしんけい)が集中している反射区が集まっている4)。人間の足裏には約60箇所の反射区があり,体に異変を起こすと,その部分に対応する足裏の反射区に体の異常が現れるため,足で健康状態を確認することができるともいわれている。二足歩行をする人間にとって重要な下肢の足指筋力はADLの重要な因子である。足指筋力測定の結果の経過観察により,健康的な歩行が維持可能であるかについて予見することができる。足指筋力は20代前半の平均は5.8kgである5)

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図1 足指筋力の測定

2-2 立位姿勢時の重心の変動

立位姿勢時の安定性を評価するためにフォースプレート(英国Kistler社製9286BA型,図2)により重心移動を計測する。立位姿勢の安定性は骨格,筋肉との緊密な連携による結果である。フォースプレートの重心解析は足圧力中心(COP:center of pressure)により重心動揺の位置と面積,および距離に関するデータを求めることである。重心動揺距離は平衡能力の評価として認められている。被験者の前方には目標物を掲示せず,初期変動が終わったときから10秒間,開眼・閉眼した立位姿勢について計2回を計測する。そのときの重心の移動距離を計算して評価する。一方,重心動揺面積の分析法は重心移動距離を計算するデータから重心を計算(計測重心)する。計測重心からの変位量を算出して重心を中心とする矩形領域を重心動揺面積とする。データ形式は,前後左右の移動 COP距離を①前方へCOP が移動した長さ,②後方への「もどり型」COPは(-)負表示,左右のCOPの移動した長さは,③前方右側を(+)正,④左側を(-)負とする。また,立脚姿勢を維持した時間・距離は力学的因子を排除するため体重で除して正規化する。立位姿勢の安定性は重心の移動量で評価する。被測定者がプレート上に乗り,足の重量分布から,立位姿勢の重心の移動(ゆらぎ)を計算して評価する。
立位姿勢の安定性はしっかりとした骨格,および筋肉に支えられて,重心の移動量は少ない。すなわち,立位姿勢の安定性は体幹機能と下肢の神経・筋肉・骨・関節機能による支持・持続性の強弱に依存する。安定した平衡機能は足指筋力や大腿四頭筋力とのバランス能力および最大歩行速度には強い関連性があるといわれ,バランス能力は下肢筋力や歩行能力の強化によるものと考えられる6-8。フォースプレートは分割されたセル毎にかかる加重(体重の一部)をロードセルにより測定できる。更に,その荷重分布により,フォースプレート上面における2次元的な重心,およびその移動量も計算できる。

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図2 フォースプレートでの測定

2-3 歩行速度と歩幅

高齢者の歩行速度と歩幅は専用フィールドで行うが,コースラインは設けない。スタート地点,終了地点を明示して,通常の歩行と早目の歩行の計2回を計測する。計測データは現場調査員,本人及びビデオ撮影した結果により収集する。
歩行動作はADLの基本である。歩行に関する評価は歩行速度と歩幅により行う。歩くことは健康にとてもよいことが医学的には証明されている。しかし,加齢とともに筋肉量が減少するサルコぺニアとなるため,高齢者にはサルコぺニアによるADLの基本的な歩行が難しくなる可能性がある。歩行は体幹の筋肉と連動して下肢の「股関節」,「膝関節」,「足関節」がそれぞれ屈曲・伸展・低屈・背屈させて,前後左右に曲げ,ひねりの動作を行う(図3)9)
歩行動作は上肢・下肢の動きが目立つが,体幹は上肢・下肢の動きを支え,上肢・下肢を安定させるために働く。歩行速度について10),人間の筋肉は,30歳では,20歳の時の筋肉量の約90%,50歳では約70%となる。20歳以降は1年に約1%ずつ衰えていくといわれる。足には体の中でも大きな筋肉がある。そのため,歩くことは筋肉の収縮・伸長することで,血液の流れを良くする。2010年,海外で発表された研究結果では,30~55歳 (研究開始時) の女性1万3535人に対して,調査開始時と9年後に歩行速度を調査し,その時の歩行速度と70歳になった時の健康状態の関連を調べた。速く歩くことができる人は,健康寿命が長い。歩行速度を3分類して健康との関係を調べた結果,①時速3.2km未満のゆっくり歩きの人,②時速3.2~4.8kmの普通のスピードで歩く人,③時速4.8km以上のやや早歩きで歩くことができる人,の中で①に比べて,②は1.9倍,更に③は2.68倍,“サクセスフルエイジング達成率”であった。ここで,サクセスフルエイジング達成率とは,大きな病気(がんや糖尿病,心臓疾患や脳疾患)にかからずに,認知障害もなく健康な状態でいられる率のことである。早歩きをするときの理想的な歩幅は,身長×0.45といわれており,身長175cmの人の歩幅は約79cmである。

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図3 歩行時の主要関節動作

2-4 筋電図

筋電図は筋電位計(エスアンドエムイー社製バイオログDL-5000型:図4)で計測する。電位計は無線通信により,離れた場所で筋電図を取得することができる。筋電図を計測する電極パッド(専用品)を筋肉表面に貼付して計測する。本報告書において,筋電図の計測は必要に応じて行う。注目する筋力の現状を知り,筋力の維持・増強・低下の改善を図るために計測する。筋電図は,活動電位を捕捉したものであるが,複数の筋線維から発生した活動電位の波形は重合され,その電位の強弱が筋収縮の強さに関係する11)。筋電図は,運動単位(全角細胞と軸策)が筋繊維(筋肉の収縮に関連する繊維状細胞)に連結されており,その筋繊維の収縮による活動電位の発生量を捕らえられる。筋全体は複数の運動単位領域で構成されており,筋肉に関係する動作の詳細さ(スキル)によりその個数が異なっているといわれる。筋肉量は高齢期の健康状態を反映する指標として有用であることが示唆されている10,12)。高齢者こそ筋肉トレーニングをして筋肉の減少を抑え,筋肉の増加に向けた健康法が大切であろう。

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図4 無線筋電図

3 .まとめ

平成27年度の本COC事業活動を通じて,大崎上島における高齢者の健康支援を実施するために,ADLに関連した身体機能計測を実施して,その身体機能計測から離島地域での健康関連における具体的な課題は何か,また,それを解決するための方策は何かということを検討・模索してきた。
本COC事業活動を通して,大崎上島における高齢者の健康づくり・健康支援について,特にADLに関連した身体機能計測から検討・模索をした。物理的な時間制約のなかで,測定データからの分析・検討は不十分であった。しかしながら,離島地域の高齢者に対する健康づくりとして,ウォーキングイベントや身体活動の普及活動を含めて,適切な歩行速度や歩行フォームなどの歩行活動について更なる調査分析を進めることで離島地域での健康づくりおよび健康増進の一助に成り得ると考えている。

参考文献

1)広島県大崎上島町 大崎上島町住宅新築・改築助成金交付要綱
2)大崎上島町(HP),サービス利用案内
URL http://www.town.osakikamijima.hiroshima.jp/zokusei/service/
3)地域在住女性高齢者の開眼片足立ち保持時間と身体機能との関連,村田 伸ほか7名,理学療法科学,Vol. 23 (2008) No. 1 P 79-83
4)足ツボ健康道場(HP),足の裏の地図帳URL  http://www.ashitsubo.com/ashimomi_kenkouhou02.html
5)NHK(HP),過去の放送,足裏チェック!疲れと痛みの真犯人はカカトだ,2015年09月30日放送,
URL http://www9.nhk.or.jp/gatten/
6)前額面上における静止立位姿勢アライメントが立位重心移動,歩行立脚中期姿勢に与える影響,渡辺幸太郎他3名,第 49 回日本理学療法学術大会(横浜),2014.05
7)立位姿勢における足圧中心動揺の評価変数の検討―試行間信頼性と変数相互の関係の観点から―,出村 慎一他4名,Equilibrium Research,Vol. 60 (2001)No. 1 P 44-55
8)立位姿勢保持における足指の作用に関する研究,浅井 仁他3名,理学療法ジャーナル,23巻 2号,pp. 137-141
9) やさしい図解「川平法」歩行編‐楽に立ち,なめらかに歩く- 川平和美 小学館 2014.2
10)地域高齢者の健康づくりのための筋肉量の意義,谷本 芳美,日本老年医学会雑誌,Vol. 42 (2005) No. 6 P.691-697
11)酒井医療株式会社(HP),表面筋電図の基礎
URL  http://www.sakaimed.co.jp/special/kinden/kinden01.html
12)オムロン株式会社(HP),歩く速さが「寿命」や「健康寿命」に大きく関係しているってホント?
URL  http://www.healthcare.omron.co.jp/resource/column/life/140.html

(公開:平成28年4月)

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