国立広島商船高等専門学校
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地域医療の現状と課題

離島における臨床工学がかかわる地域医療の現状と課題

諌山憲司(広島国際大学)
岩井 一師(一般教科)
大和田 寛,松島 勇雄(電子制御工学科)

 1.はじめに

本邦における全国的な超高齢化とともに,近年,様々な疾患をもつ高齢患者,寝たきりや独居患者,種々の生活習慣病を合併した慢性疾患患者は増加している。慢性透析患者数は,年々増加し,現在30万人以上である。医療機関で行う血液透析(Hemodialysis: HD)が97 %,在宅HDが0.1 %を占めており,2.9 %が在宅での腹膜透析(Peritoneal Dialysis:PD)を選択している(2013年)。腎機能低下や腎不全に陥った患者は,週3回程度4~5時間のHDを受けるため通院が必要となる。PDは,透析前の患者自身の生活スタイルを大きく変えることなく始められるため,より高い生活の質(QOL)が得られ,へき地や離島などHDのための通院困難な地域でも活用されている。さらに,呼吸器疾患患者も増加するなか,医療経済的効果のみだけでなく,患者にとって長期入院よりQOLが高い治療法とされている人工呼吸器の発達は目覚しく,1990年に在宅人工呼吸療法(Home Mechanical Ventilation: HMV)が医療保険で承認されて以降,HMV患者は増加し続けている。さらに2003年に施行された支援費制度(現, 障害者自立支援法による制度)により,近年HMVは,これまでの在宅患者の生活を一変させ,重度の身体障害を有している場合であっても住み慣れた地域で自立した生活を営むことを可能にした。
このようにHDやHMVなど臨床工学にかかわる医療技術は改良され,厚生労働省も在宅医療・介護への推進を推奨しているが,全国的に急速な超少子高齢社会と人口減少が進展するなか,離島地域では,さらなる20, 30年後の全国的将来予測に匹敵する進度で超高齢化と若年層の人口流出が顕著となっている。これらの現象が進むほど,離島地域のコミュニティおける医療・介護・福祉は老老介護が強いられ,在宅医療支援が十分でなくなり,住み慣れた地域を離れざるおえない事情となる。さらに,日常だけでなく巨大災害などが発生した場合,在宅でHDやHMVを施行している患者は,厳しい状況に追いこまれる。日常生活で使用するのと同等の電気や水道水が必要となり,ライフラインや物流が途絶え,備蓄が底をつきた場合や物資の継続確保が困難な状況下が長引けば,特に在宅患者は,生命の危機に直面することになる。
本研究の目的は,離島における臨床工学にかかわる地域医療の現状を調査し,課題を検討することである。対象と方法は,「離島,血液透析,腹膜透析,在宅人工呼吸療法」をキーワードにWeb検索と文献調査を行った。さらに,2014年8月,広島県瀬戸内海の離島(大崎上島町)において,在宅HD施行患者宅,在宅支援センター,社会福祉協議会・地域包括支援センター,老人保健施設,医院(医師)の関係者にヒアリング調査を行った。

 2.離島における臨床工学がかかわる地域医療の現状

本邦の透析事情は,世界一の透析人口比率を有しながら,欧米の国々と比較し,HDの割合が多く,PDや腎移植の割合が極端に少ないというアンバランスな状況である。バランスのとれた腎不全医療を行うには,HD・PD・腎移植という三つの治療法における選択の機会が与えられることが重要である。近年PDは,徐々に普及してきたものの,PD率は約3 %と多くない現状である。在宅HD率は0.1 %に過ぎないが,患者数は2009年以降,増加傾向にある(2013年)。PDは基本的に患者自身で行う治療法であり,医療施設を必要とせず,へき地・離島などHDのための通院が困難な患者にも用いられるため,離島では全国集計と比較しPD率が高いと報告されている。
〔大崎上島町〕
人口約8,000人の大崎上島町で行政機関が把握しているHD患者は,17人であった。これは,通院費の3/4が補助対象であることから申請者数となる。一般的に,HDに関連する物資調達や在庫管理が難しいことから,へき地・離島でのHDは困難とされている。しかし,今回,在宅HD者が,スマートフォンのアプリを活用し,病院のバックアップを受け,QOLを向上させていることが分かった。
・ヒアリング調査
在宅HD患者から,通院時と比較し在宅HDへと変わった後の主な利点は,1)通院の手間が省けたこと,2)HDに関する全体の費用が減じられたこと,3)自宅で毎日HDを施行できるため,身体の体調が良くなったこと,4)物資輸送は保険適用(月1回)で,在庫管理は,スペースが確保でき問題ないこと,5)地震の揺れを感じた後には停電を予測し,HDの施行を控える,などが挙げられ,このように日常のQOLを向上させていることが分かった。特別養護老人ホームから,HD,PD,HMV患者の居住はなく,ホーム内で“胃ろう”のケアは数名に行っている。在宅支援センターから,PD患者が1名存島,在宅HMV患者はいないことが分かった。社会福祉協議会・地域包括支援センターから,島内の高齢化率(65歳以上)は,45 %であり,広島県内1の超高齢地域である。これを踏まえ,居宅サポートや日常生活自立支援が行われている。医院から,島内にある5つの診療所に人工呼吸器は整備されていないことがわかった。これは,全ての診療所が入院病床を有さず,専門のスタッフを確保する難しさからである。

3.離島における臨床工学がかかわる地域医療の課題

離島における慢性疾患患者の医療・福祉支援は,専門医や社会資源が乏しいため,保健師を中心に展開されている現状がある。HDやHMVなど臨床工学がかかわる分野においても,離島ではHD施設の整備(維持・拡充)自体が困難である。これは,全国的に超高齢化が進む中,特に顕著な人口減少地域では,現存するHD医療施設を維持するだけでも困難となりつつあり,まして離島となれば,費用対効果を鑑みるとさらに厳しいのが医療サイド側からの実情である。さらに離島では,夏は台風,冬は季節風により海上の時化の心配があり,HD通院者は,島で足止めをくうことがある。離島の住民には,常にこのような不便さが付きまとっている。在宅療養患者を介護するためには,介護士などと地域のコミュニティケアが必要となる。しかし,離島ではこのような介護にかかわる人材や社会資源が少ないため,家族や親族への負担が大きくなることも実情である。
〔大崎上島町〕
HDやHMVなど臨床工学がかかわる分野において,大崎上島町の最も大きな課題は,先述した課題と同じく,あるいは,それ以上の切実な人材不足である。
・ヒアリング調査
在宅HD患者から,通院時と比較し在宅HDへと移行した後の主な課題は,在宅HDへシフトする際,1)自分で施行するために病院医師・臨床工学技師の指導下で,約1ケ月半のトレーニングが必要であったこと,2)自分でHDの回路システムを理解し施行する必要があること,3)便利ではあるが,バックアップ機能として病院の臨床工学技師とスマートフォンのアプリを活用しながらの実施が必要なこと,などが挙げられた。トレーニング終了後で在宅HDに慣れた現在では,ほぼ問題なく施行できていることが分かった。
特別養護老人ホームから,本離島では,交通手段が船舶に限られ,特に航行終了以降の夜間は,他病院からの支援や援助を受けることが難しく,医療スタッフを育成するための余裕も乏しく,人材育成に苦慮している。在宅支援センターから,島内で在宅HMVが行われていない理由として,1)人工呼吸器の知識を有したスタッフが少なく,経費負担と研修期間の長さ,指導看護師の確保困難などから,人材育成が非常に困難であること,2)入院施設を有する大きな病院がなく,医師との密接な関係が築くことが難しいこと,3)地域の高齢化や独居が顕著で,見守りや介護者が近くに存在せず,迅速な医療対応が困難なこと,4)介護・福祉支援が十分でなく,家族の介護負担が大きいこと,5)家族の介護負担が増し,継続の困難さから,島外病院への入院を選択する場合が多く,島内でのHMV需要が少ないこと,などが挙げられた。社会福祉協議会・地域包括支援センターから,在宅HDを行う場合,HD施行者の介助が必要であるにもかかわらず,島内での就労機会が乏しいことから若年層から中年層が島外へ移転することが多いため,在宅医療が老老介護となり,HD施行者の介助者を確保するこが困難となる。医院から,島内で在宅HMVが行われていない理由として,1)外科を行う診療所がなく外科を専門とする医師も存在しない。2)人工呼吸器を利用する必要がある患者は,島外の大きな総合病院に入院すること,3)夜間対応が不十分で緊急対応が困難であること,などが挙げられた。

4.考察

人口規模が小さな離島には,ほぼHD施設が存在しない。理由として,腎臓病治療は医療費増加の1要因だとされており,国民医療費全体に対する比率も増加しており,全国的に,HD患者が年々増加し医療費を圧迫していること,人口規模が小さなへき地や離島では,費用対効果から,HDの導入が困難であることが考えられる。離島におけるHD患者は,通院困難であるにもかかわらず島内に在住している理由は,『島に住み続けたいから』,『近所とのつながりがあるから』,『子供の世話になることも多く精神的・経済的に大きな負担となっており,できるだけ自力で通院したい』などの理由からである。しかし,今後,離島において,さらなる超高齢化と若年層の人口流出が加速すれば,島外へのHD通院が困難となるだけでなく,島内の地域医療・介護・福祉自体が破綻しかねない。
HDは,PDと比較するとコストが高く,医療費削減を目標とする政策から,今後もPDの普及が望まれる。さらに,離島におけるHDの在り方として,医療スタッフの確保や経済的な問題から島内のHD施設の維持・拡充は困難と考えられるため,今後のHD導入にあたっては,医学的にHDとPDのどちらも可能であれば,できるだけPDを勧めることも必要であろう。都会よりもむしろ離島で普及してきたPDは,超高齢者社会の中で在宅医療推進という追い風をうけ,さらなる展開をみせる可能性はある。しかし,PDは,自己管理が非常に重要であるため,さらなる超高齢化が進展すれば,PD普及の困難さが増すことも確かである。
一方,離島において,HDに比べPDの方が多いという報告があったが(1999 武富),大崎上島町の状況は違った。その理由として,老老介護の負担増が考えられる。大崎上島町は,45 %を超える超高齢地域であるため,PDの施行も介助者の確保困難から実施不可能な現状に陥っていることが予測される。大崎上島町では,HDやPDを熟知した医療スタッフが少なく,老老介護の負担や介助者の確保など,多くの課題が残存している。それを改善するために,今後,医療スタッフの育成や訪問介護の充実,また患者家族だけでなく地域全体で介助者のサポート体制を確立させ,在宅HDやPDをより普及させていく必要があると考える。HMVの離島での活用は今後,さらに困難さが増すものと考える。離島でHMVが行える環境を整えようとする場合,診療所の医師や看護師,外科を専門とする医師の確保,地域の保健師や介護士の支援,コミュニティでの介助支援や家族とも連携する支援体制の構築と人材育成・確保が必要となるからである。
さらに,災害発生後には,前述した日常の課題がさらに露呈することとなる。医療・介護支援者は不足し,怪我をした被災者や他の慢性疾患患者へのケアも必要となる。HDの場合,もちろんHDを起動させるための電源と,透析液を作るための水道水100リットル程度が必要となる。停電や断水となれば,HDは行えないことになる。

5.対策

離島における臨床工学にかかわる課題への対策として,まず医療・福祉・介護分野でのオープンデータの一括管理とコミュニティネットワークの構築が必要であると考える。HDやPDに関する情報だけでなく,他の各部署が現有する医療・福祉・介護データとヘルスケアに関するコミュニティネットワークがマッチした対応が可能であれば,部署間の繋がりは強化され,無駄な労力を減ずることが可能になる。現有する社会資源と医療資源を最大限活用するためには,より横断的な情報管理と人的交流が必要となる。閉鎖された地域の離島で,人口規模が少ない島ほど,実行・波及スピードは速い可能性がある。
定期的に専門医が派遣・巡回されるシステムの構築,訪問看護を組み合わせ,きめ細かい診療支援を行う体制,遠隔医療支援システム・IT技術を活用した情報ネットワークと効率的な支援体制の構築,入院や24時間対応できる医療体制など,様々なシステムや医療体制を整える必要がある。また,大崎上島町の在宅HD患者が使用していたスマートフォンのアプリを利用した遠隔在宅HD支援システムは,今後,HD患者のQOLを向上させる一つの方策になると推察できる。しかしここでも,今後,行政や家族のサポートだけでなく,コミュニティでの介護者確保など,地域全体でのサポートが必要になる。PDの場合,腹膜炎など合併症に対応できるバックアップ体制の強化と,長期透析継続のための検討と対策も必要である。在宅療養患者を介護する家族に専門的立場から適切なアドバイスを与える機会を十分作ることができれば,島内での在宅療養も改善できる可能性がある。
臨床工学にかかわる技師(臨床工学技士)は,基本的に病院内で勤務することを前提にされているが,今後,臨床工学技士などの専門医療スタッフが島内の公民館や診療所へ配属され,医師の指導下でHDやPDが島内で施行できる可能性や,臨床工学技師の病院外で活躍の場が広がることは,医師不足,医療・介護スタッフの人材不足といった課題を解く一つの対策となると考えられる。
さらに,災害発生後,日常以上に在宅療養管理が困難になることを離島自治体が具体的に想定し,被災後,在宅療養患者を含めた災害関連死を減ずるため,今後HD・PDに関連する物資備蓄,自家発電や自治区ごとの発電機配備なども真剣に検討する必要がある。

6.まとめ

本邦の透析事情は,世界一の透析人口比率を有しながら,欧米の国々と比較し,HDの割合が多く,PDや腎移植の割合が極端に少ないアンバランスな状況である。HD・PD・腎移植と三つ選択の機会が与えられることが重要である。
離島では,HDに比べPDの方が多いという報告があるものの,大崎上島町の実地調査からその状況が違うことが分かった。その主たる要因は,老老介護の負担増と人材不足が進展していることが考えられた。全国的に超高齢化が進む中,特に顕著な人口減少地域では,現存するHD医療施設を維持するだけでも困難となりつつあり,まして離島となれば,費用対効果を鑑みるとさらに維持・拡充は厳しいのが実情である。今後,離島において,さらなる超高齢化と若年層の人口流出が加速すれば,島外へのHD通院が困難となるだけでなく,島内の地域医療・介護・福祉自体が破綻しかねない。
対策として,遠隔医療支援システム・IT技術を活用した情報ネットワークと効率的な支援体制の構築,臨床工学にかかわるスタッフの人材育成,さらに災害対策を含めたIT技術を支える地域コミュニティの支援が,今後より一層必要となる。

参考文献

1) United States Renal Data System Coordinating Center「2012 ATLAS of CKD  %ESRD」, http://www.usrds.org/atlas.aspx. 2013.
2) 松雄秀徳, 他:離島における筋萎縮性側索硬化症患者の療養支援. IRYO Vol.60 No.10 632-6, 2006.
3) 坂東政司, 他:わが国のへき地医療機関における在宅呼吸管理の現状と管理, 日呼吸会誌 42(4), 313-8, 2004.
4) 武富賢治:人工透析と地域医療.
http://naosite.lb.nagasaki-.ac.jp/dspace/bitstream/10069/6386/1/KJ00000715381.pdf. 1998.
5) 日本透析医学会:2013年末の慢性透析患者に関する基礎集計2)患者数等(6)慢性透析治療の形態の割合推移(図表7), http://docs.jsdt.or.jp/overview/pdf2014/p008.pdf.2013.

(公開:平成28年5月)

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