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嚥下機能維持システム

嚥下機能の維持・改善システム

岩切 裕哉(流通情報工学科)

概要 高齢者が元気に生活を送るために必要な嚥下機能の維持・改善のために,介護施設では食事の前に嚥下体操が行われている。しかし,介護施設職員は多忙であるため,施設利用者全員に嚥下体操を行わせることができないのが現状である。そこで,本研究では,嚥下体操とICT技術を組み合わせ,楽しみながら嚥下体操を行うことができるシステムを提案した。提案システムを介護施設で実験を行ったところ,楽しみながら取り組んでもらえ,良好な結果を得た。

キーワード 嚥下機能/認知症予防/高齢者支援

 1.はじめに

高齢になると,身体機能の低下と同様に,食べ物や唾液を飲み込む嚥下機能も低下してくる。嚥下機能が低下すると,誤嚥を引き起こしやすくなってくる。誤嚥とは,食べ物が誤って気管に入ることで,誤嚥が原因である誤嚥性肺炎を引き起こすことに繋がる。
高齢者介護施設(以降,介護施設という)では,食事の前に嚥下機能の維持・改善のために嚥下体操が行われている。嚥下体操の内容としては,深呼吸,首の運動,肩の運動,口の運動,舌の運動,頬の運動,強く息を吐く訓練,発声訓練などがある。嚥下体操は,多数の施設利用者に対し,数名の職員が声かけをしながら行っている。嚥下体操を積極的に取り組んでいる方もいるが,全く参加しない方もいる。嚥下体操は,日常のリハビリとしても有効であるが,職員の手が足りないため,全員に対し行わせることができないのが現状である。嚥下機能を維持・改善することは,高齢者が食べる楽しみを得ることに繋がり,生活意欲の高揚がはかれるなど科学的に証明されている。高齢者が楽しく実践でき,モチベーションを高めるものが求められている。
そこで,本研究では,嚥下機能の維持・改善を目的とした嚥下運動支援システムを開発する。楽しみながら継続的に行うことができるシステムを目指す。

2.研究内容

2-1 嚥下運動支援システムの概要

提案システムは,介護施設で日常的に行われている嚥下体操のうちの発声訓練の要素を取り入れたもので,パタカラ体操という「パ」「タ」「カ」「ラ」の発音を行う。
パタカラの発音の意味は,食べるときに働く筋肉を鍛えることができる。「パ」を発音するときは,唇を一度閉じるため,この動きが唇を閉じるための訓練とされる。「タ」を発音するときは,食べ物をかむときや飲み込むときの動作に必要な筋力を鍛える。「カ」の発音は,食べ物を食道に運ぶための筋力を鍛える。「ラ」の発音は,食べ物を飲み込むために必要な舌の筋力を鍛える動作となっており,パタカラの発音はできるだけ大きく,はっきりと行うと良いとされている。介護施設では,パタカラを数回発音したり,ただ発音するだけでなく,曲に合わせて発音させたり工夫している。
提案システムでは,パタカラの発音とモグラ叩きゲームを組み合わせ,楽しみながらパタカラ体操ができる。提案システムの構成を図1に示す。PC,マイク,TVを使用する。TV画面に映し出された文字を発音し,PCで音声を認識して,映し出された文字と発音した音声とが一致しているかで判断する。利用者はTV画面を見て,どの音を発音するかを考える必要があるため,認知症予防としての効果も期待している。

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2-2 ゲーム画面

ゲームを開始すると,図2に示すように,「パ」「タ」「カ」「ラ」の札を持ったモグラが表示される。表示されたモグラの持つ文字を発音するとモグラを叩くことができる。モグラは一定時間で消えるため,発音ができなければ自動的に次の問題へ移る。
ゲームの制限時間は80秒であり,時間が経過すると図3に示す結果画面に移る。結果画面では得点と,得点に応じた評価が表示される。スコアと評価により次回以降のモチベーションに繋がる。

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図2 ゲーム画面
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図3 結果画面

3 .介護施設での実地調査

介護施設において,提案システムの実地調査を行った。対象者はデイサービスの利用者18名である。実験の様子を図4に示す。パタカラ体操を基にしているため,比較的容易に受け入れられた様子であった。しかし,発音結果が正常に認識されない場合があり,音声認識については改善する必要があると感じた。また,実験に協力いただいた職員についても,パタカラ体操を指導する要領で,スムーズに協力していただくことができた。
提案システムを遊んでもらったあと,アンケート調査を行った。アンケート結果を図5に示す。アンケート結果より,楽しめている様子が確認できた。今回,実験の対象としたデイサービスの利用者は,比較的元気な方が多かったため,提案システムは簡単であると答えた方が多かった。そのため,複数の難易度を用意するなどして,モチベーションを維持する工夫が必要であることが分かった。
また,実験に協力いただいた職員に対してもアンケート調査を行った。その結果,パタカラ体操を基にしているため,効果が期待できると回答があった。提案システムは,一人で遊ぶものであったため,全体のレクリエーションでは使用できないが,個別のリハビリテーションのメニューとしては使用できそうという回答であった。

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図4 実験風景
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図5 アンケート結果

4.まとめ

嚥下機能の維持・改善システムを提案し,アプリケーションソフトの開発を行った。介護施設での実験の結果,楽しみながら取り組んでもらえ,比較的スムーズに受け入れられそうなことが分かった。
今後の課題として,利用者のモチベーションを維持するために,複数の難易度を用意する。さらに,今回はデイサービスの利用者を対象としたため,認知症の度合いが重い方についても調査する必要がある。また,医療従事者から提案システムへの知見を得ることも挙げられる。

参考文献
1) 介護予防マニュアル(改訂版:平成24年3月),厚生労働省

(公開:平成28年5月)

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