国立広島商船高等専門学校
文部科学省 地(知)の拠点

MENU

アマモ場観測

アマモ場の観測システムに関する研究

芝田 浩(電子制御工学科)

概要 近年日本の沿岸海域における環境破壊が問題となっている。本校が位置する大崎上島においても様々な問題が発生しているが,中でもアマモ場の減少が問題となっている。アマモ場の減少をくい止めることは,水産振興,海洋環境の保全などに多大な貢献ができると考えられ,対応策を検討する上でシステム的な環境観測が必要となっている。本研究では,沿岸海域のアマモ場の観測に対して各種センサを搭載したセンサノードで形成される無線センサネットワークと携帯通信システムを組み合わせた観測システムの適用を検討した。本報告では、アマモ場の観測システムに対する無線センサネットワークの適用方法と,実際に開発したシステムの構成と実現した機能について述べる。本システムの開発における学生に対する教育効果や現地調査法や収集データの解析法を通した学生の学習効果についても紹介する。

キーワード 生活・環境/海域環境保全/アマモ場/観測システム

1.はじめに

近年日本の沿岸海域における環境破壊が問題となっている。本校が位置する大崎上島においても様々な問題が発生しているが,中でもアマモ場の減少が問題となっている。沿岸海域にある藻場のうち,種子植物である海藻類(アマモ類)を主体として静穏な砂底や泥底に形成されるものを「アマモ場」と呼ぶ。本校が立地する大崎上島周辺海域には良質なアマモ場が存在し,環境省のモニタリングサイト1000(アマモ場に関しては全国で6箇所選定されている)にも入っている。アマモ場は,生産性が非常に高く,有用な魚介類や絶滅危惧種を含む生物多様性のホットスポットとなっている。さらに,水質の浄化や底質の安定化に貢献するなど,沿岸生態系のなかで多様な機能を果たしている。このように貴重な生態系であるにもかかわらず,沿岸海域におけるアマモ場の面積は減少し続けている。アマモ場の減少をくい止めることは,水産振興,海洋環境の保全などに多大な貢献ができると考えられ,減少を抑制する対策を検討する上でシステム的な環境観測が必要となっている。
一方,無線通信技術やセンシング技術の発展に伴い,情報を効率よく収集するための手段として,無線センサネットワークが注目されている。無線センサネットワークを用いたシステムは,分散配置された多くの無線デバイスが,無線リソースを共有しながら互いに協調して通信することで全体として機能する。一般的に無線センサネットワークでは,センサを搭載する無線の端末を空間に散在させ,互いに協調しデータを採取することで,その領域の状況や環境を把握する。1つのセンサノードあたりの能力は非常に限られたものであるものの,ネットワーク全体で環境観測に対して機能を発揮するシステムを構築することができる。
本研究では,沿岸海域のアマモ場の観測に対して各種センサを搭載したセンサノードで形成される無線センサネットワークと携帯通信システムを組み合わせた観測システムの適用を検討した。導入・運用コストを抑えつつ,観測結果をリアルタイムに確認できるシステムを開発し基礎実験を実施した。アマモ場の観測システムに対する無線センサネットワークの適用方法と,実際に開発したシステムの構成と実現した機能について述べる。本システムにより,学生に対する教育効果について,現地調査の方法や収集データの解析方法による学習についても述べる。

2.事業内容

2.1 アマモ場の減少と海域環境保全

アマモ場の世界的な減少には,人間の経済活動による水質悪化や海岸線の改変などが大きく関与している。これらは,アマモ場に限らず様々なタイプの沿岸生態系で生物多様性の減少や生態系機能劣化を引き起こしている。そのうえ,地球温暖化や海洋酸性化などのグローバルな気候変動との相互作用により,沿岸生態系にさらに深刻な悪影響を与えることが懸念されている。地球規模の気候変動の影響評価は経済活動のシナリオにも依存するため,その予測が非常に困難である。そのような状況でアマモの生態系を守るためには,継続的なモニタリングにより生態系の変化を早期に検知し,順応的管理を進めることが重要である。アマモ場のモニタリングについては,種々の方法が提案されており,各方法の利点と制約について十分理解した上で,適用を検討する必要がある。

2.2 環境観測システムの構築

本研究では,沿岸海域で使用することができる携帯通信システムを適用しリアルタイムにデータを確認しながら,モニタリングポイントの拡充と通信費用を低減するために無線センサネットワークを組み合わせたモニタリングシステムを構築し、その機能を調査した。
観測システムの概要を図1に,観測ブイの形状を図2に示す。基本的な構成としては,シンクとなる観測ブイ(以下,シンク)と,PANで接続されたサテライト観測ブイからなる。各観測ブイには水温,照度を計測するセンサを搭載し,マイコン(Arduino UNO)にて制御する。得られたデータをPANを通じてシンクに集約する。シンクには移動通信システムへ接続する拡張ボード(3Gシールド)を搭載しており,集約したデータを移動通信システムとインターネットを介してデータサーバに送信する。観測者は,データサーバにアクセスすることで,結果をリアルタイムに確認することができる。サテライトの観測ブイの増設によりモニタリングポイントを増やし,通信費用が発生する形態通信システムへの接続をシンクのみにすることで運用コストを抑える。
得られたデータについては,クラウド上で展開されている既存のサービス(ThingSpeak)を利用することで,簡易的にグラフ化してブラウザで表示することができる。表示結果の事例を図3に示す。得られたデータを基にして,今後、アマモ場の保全活動に役立てていく。


図1 アマモ場観測システムの概要

図2 観測ブイの形状

図3 受信データの表示事例

3.成果

3.1 システム改善と今後の展開

本研究で構築したアマモ場の観測システムについて,生育環境のデータを取得することができた。しかし,現時点では基本的なデータのみで,表示も簡易的なグラフ表示のみである。今後は,取得するデータの種類を増やしつつ,生育環境の分析に活用しやすいようにすることを念頭にいれ,取得したデータのインターフェースについて研究開発する予定である。また,本システムの基本構造を使用することで,他分野へ応用することを検討する。現時点では,梅雨時期に大量の降雨が流入することで発生する塩分濃度が薄い海水の状況(水潮)のモニタリングや,海上での捜索作業や漂流ゴミの回収作業への応用を検討している。

3.2 システム開発と学生への教育効果

本研究では,学生が地域の課題を通して,離島資源を活用した研究を実施し,故郷や地域への関心・理解を深めるとともに,将来,地域に貢献できる人材を育成することを目指した。アマモに関する調査,必要なシステムの検討,観測ブイ・搭載するセンサ・通信システム・データ閲覧方法の検討を学生が実施することで,この目標はある程度達成されつつあるが,まだ教員の指導によるところが大きい。今後は,今年度の学生の経験を基にして,機材を使用した現地調査,現在のシステムの問題点の分析から対策とその評価に至るまで,学生が自ら研究計画を立案し実施することを促す予定である。さらに,実際の観測とシステム構築の基礎について,電子制御工学科の実験実習へ取り入れていくことを検討する。

4.まとめ

本論では,沿岸海域のアマモ場の観測に対して,無線センサネットワークと携帯通信システムを組み合わせた観測システムの適用を検討することができた。今後の課題として,本システムに関する改善および学生に対する地域教育効果の向上が挙げられる。

参考文献

[1] 仲岡雅裕,渡辺健太郎: ‘‘アマモ場の生物多様性・生態系モニタリング”, 海洋と生物 195 vol.33 no.4 pp.315-322 (2011).
[2] 芝田浩,三宅央朗,高見橋三,石嵜健人,岡田信吾: ‘‘アマモ場の環境モニタリングにおける無線センサネットワークと携帯通信システムの適用”, 電子情報通信学会 2014年総合大会 (2014).
[3] 芝田浩,三宅央朗,浜崎淳,徳田太郎,松山幸彦,岡辺拓巳 : ‘‘赤潮のモニタリングシステムに対する漂流ブイと無線センサネットワークの適用”, 土木学会論文集B2(海岸工学)Vol. 69,No. 2,2013,I_1476-I_1480 (2013).
[4] 芝田浩,三宅央朗,浜崎淳,徳田太郎,松山幸彦,‘‘漂流ブイと無線ネットワークを用いた赤潮モニタリングシステムの開発”, 電子情報通信学会 信学技報 ASN2013-6 (2013-05) pp.31-34 (2013).
[5] 芝田浩,浜崎淳,永岩健一郎,‘‘赤潮の発生に対する観測システムの基本構成に関する研究”,広島商船高等専門学校紀要 第34号 (2012).
[6] Hiroshi Shibata, Takumi Okabe, Toshinori Ishikawa, Takahiro Horiguchi, Shin-ichi Aoki, Tsutomu Komine: “Development of Surface Current Observation System using GPS Sensor Network and its Application to a Bathing Beach”, Proceedings of the Twenty-second (2012) International Offshore and Polar Engineering Conference, Vol.3, pp.1375-1381 (2012).

(原稿受理:2014年2月 公開日:2014年3月28日)

PAGETOP
Copyright © 広島商船高等専門学校 All Rights Reserved.