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赤潮観測

漂流ブイと無線ネットワークを用いた赤潮観測システムの開発

芝田 浩(電子制御工学科)

概要 瀬戸内海や九州を中心とした日本の沿岸海域において発生する赤潮は毎年甚大な被害をもたらしている。赤潮による被害を最小限に抑えるために、赤潮の分布や移動状況、海水温などのデータをモニタリングし、時々刻々と変化する赤潮を監視することが重要である。本研究では、赤潮による漁業被害を最小限に抑えるために、赤潮が発生した際にその位置や移動状況などをリアルタイムに観測する赤潮観測システムを開発した。本システムは、無線ネットワークに接続した漂流ブイを赤潮と一緒に漂流させることで、赤潮の位置、海水温、照度の各データをリアルタイムに取得する。本論では、漂流ブイと無線ネットワークの適用によるシステムの概要、および赤潮が頻繁に発生する実際の海域での観測について述べる。

キーワード 漁業被害対策/赤潮観測/無線ネットワーク/漂流ブイ

1.はじめに

瀬戸内海や九州を中心とした沿岸海域において、夏季に発生する赤潮は、毎年甚大な漁業被害に至る原因の一つであり、重要な社会・経済問題として取り上げられている。赤潮とは、植物プランクトンが大増殖することによって海水の色が、赤褐色や茶褐色に変わることをいう。赤潮は、戦後に多くの漁業被害を伴い頻発するようになった。その原因は、温暖化を含めた地球環境の変化や沿岸海域の工業化による工場排水の影響など、様々な要因が複雑に関わりあっている。各種の排水対策を実施することで赤潮の発生件数がやや減少し、赤潮の監視体制も全国に張り巡らされたものの、依然として毎年のように漁業被害を伴っている。統計が開始された1969年以降の被害総額は、550億円を越えている。特に2009年と2010年の2年間だけでも被害額は85億円となっている。
発生した赤潮の状態を時間経過に沿って調査すると、初期は海水面に近い層を浮遊しており、海流や風の影響により移動しながらやがて消滅することが知られている。赤潮被害とは、発生した赤潮が養殖場に流入することにより、養殖魚がエラの障害を引き起こし大量へい死することである。赤潮被害への対策として、人為的な努力によって赤潮の発生そのものを防止することは、現在のところ非常に困難である。そのため、船舶調査や人工衛星画像で、赤潮の分布や移動状況、海水温などのデータをモニタリングし、時々刻々と変化する赤潮を監視することで、赤潮による被害を最小限に抑える方策が取られている。養殖業者での具体的な対策は、赤潮が養殖施設に近づいた場合に施設(生簀)を比較的酸素濃度が高い深い層に沈め、赤潮の通過を待ち、被害を最小限に抑えている(図1)。しかし、赤潮は、海岸沿いで発生し滞留することもあれば、海流に乗り沖合に出ることもあるなど挙動が複雑であり、発生場所・時刻の特定が難しく、漁場への流入は昼夜を問わない。赤潮が漁場に流入した場合、早い時は10分以内に養殖魚がへい死するため、素早い対応が求められる。そのため、24時間の赤潮観測体制が望ましいが、労力やコスト的に実施が困難であり、十分に対応できていないのが実状である。これに対し、近年の情報通信技術の発展と通信機器・通信費用の低価格化により、海域での観測方法についての試みがなされつつある[1][2]。
本論では、養殖業における赤潮による漁業被害低減するために、赤潮の状況をモニタリングするシステムを開発することを目的とし、システムの概要、および赤潮が頻繁に発生する実際の海域での観測について述べる。

赤潮

図1 赤潮観測システムの概要

2.赤潮観測システムの概要

2.1 システム概要

養殖業における赤潮対策の一つとして、赤潮をモニタリングし、状況に合わせて養殖設備場所をコントロールすることで被害を最小限に抑えている。本研究では、赤潮の被害を最小限に抑えるための、赤潮のモニタリングシステムを開発した。システムの概要としては、赤潮が発生した際にその移動状況をリアルタイムにモニタリングする漂流式の観測ブイと、無線ネットワーク網を利用したデータの送信部で構成した(図2)。本システムの使用方法としては、赤潮が発生した後、その領域へ漂流ブイを放ち、漂流ブイから送信されるデータに基づき、赤潮の移動経路を観測する。赤潮が現在どの位置に存在し、どのようなルートでどのくらいの期間で養殖施設へ到達するかを把握する。監視している担当者は、得られたデータを基にして養殖施設をコントロールすることにより、赤潮に対応した被害対策を施すことになる。

赤潮

図2 赤潮観測の無線ネットワークシステムの概要

2.2 漂流ブイの形状と構成

本システムにおける漂流ブイの形状ついて述べる。漂流ブイの形状を図3に示す。漂流ブイを赤潮の発生場所に投下することで、赤潮と共に海上を浮遊して、時々刻々と変化する位置の情報、海水温、照度を観測する。漂流ブイは、センサや通信デバイスを搭載した球状の浮体部分と、表層の赤潮の移動に合わせて追従するための、海水中に位置するドローグで構成される。これらはロープで連結されており、海流をドローグで捉えることで、漂流ブイが海流にあわせて移動する。このときロープの長さを調整することで、観測したい水深の海流を調査できる。ドローグは、Niilerら(1995)の研究[3]を基に作成し、ポリカーボネートの板を90°交差させて組み合わせることで海流を捉え易くしている。
球状の漂流ブイの内部には、データを観測するためのセンサおよび、無線ネットワーク網を利用したデータの送信部を格納している。漂流ブイの位置情報を計測するためのGPS、海水温を計測するための温度センサ、光の強さを計測するための照度センサ、全体を制御するマイコン、取得したデータを送信するための通信機器、および電源を載せた。各センサから得られたデータはマイコン(Arduino)にて処理され、通信機器を使用し、携帯電話の通信網を経由して、電子メールで送信する。観測されたデータは、監視場所のコンピュータやモバイル機器で確認できる。漂流ブイの奇跡を表示するために、Google社の地図サービスであるGoogleマップのAPIを使用した[4](図4)。監視者は、得られたデータを基にして養殖施設をコントロールすることで、赤潮に対応した被害対策を施す。漂流ブイは、養殖業への適用性と船舶航路への影響を考慮し、安価で小型に開発した。

赤潮

図3 赤潮観測ブイの形状

赤潮

図4 地図上に記録された観測ブイの移動位置

3.現地観測結果と今後の課題

3.1 現地観測結果

開発システムを使用し、例年赤潮が発生している実際の海域にて、現地観測による各種実験を行った。結果として、漂流ブイの位置情報と温度および照度の観測データを得ることができ機能を確認することができた。漂流ブイから得られたデータから、位置データについてシステムの表示結果と海水温および照度のデータを図5(a)(b)に示す。

赤潮

図5(a) 観測ブイの移動表示

図5(b) 観測ブイから送信されたデータ(水温・照度)

図5(b) 観測ブイから送信されたデータ(水温・照度)

3.2 システムの改善

本研究で構築した赤潮の観測システムについて、基本的な機能を確認することができた。しかし、現時点では基本的なデータのみで、赤潮を分析するまでのデータになっていない。そのため、各種センサを拡充することにより、より多くの詳細なデータを取得できるシステムへの発展が望まれる。さらに、漂流ブイの操作性を容易にすることで、養殖業者において実際に利用されるシステムにするための改善が必要である。本システムを利用していただき、数多くのデータを収集することにより、予測システムへの発展が期待できる。これらの改善を施すことで養殖業者において有用なシステムにする必要がある。

4.まとめ

本論では、養殖業における赤潮に対する漁業被害を低減するために、赤潮の状況を観測するシステムを開発することができた。さらに、例年赤潮が発生する八代海の海域において本システムを使用した観測を実施し、視覚的に漂流ブイの移動を表すことができた。今後は、漂流ブイのセンサを拡充すること、操作性を容易にすること、数多くのデータを収集し予測システムへ発展させることにより、養殖業者において実際に利用されるシステムにするための改善が必要である。

参考文献
[1] 石井大輔:GPS機能付き携帯電話を用いた漂流ブイ観測システムの開発,九州大学応用力学研究所技術職員技術レポート,9,pp.119-137(2008).
[2] 入江博樹・三田長久・上久保祐志・斉藤郁雄:GPS搭載漂流ブイを用いた八代海の潮流観測システムと数値解析,信学報,SANE,106(471),pp.69-74(2007).
[3] Niiler, P., Sybrandy, A., Bi, K., Poulain, P. and Bitterman, D:Measurements of the water-following capability of holey-sock and TRISTAR drifters, Deep Sea Research Part I: Oceanographic Research Papers,Vol.42,issue11-12,pp.1951-1955(1995).
[4] Google Maps API:https://developers.google.com/maps/?hl=ja.


(原稿受理:2014年4月8日 公開日:2014年4月11日)

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