国立広島商船高等専門学校
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イノシシ捕獲

大崎上島町におけるイノシシ捕獲システムの開発

藤冨 信之・今井 慎一(電子制御工学科)

概要 近年,本校の所在する大崎上島をはじめ全国各地でイノシシによる農作物や人への被害が増加し多数報告されている。広島県の農作物への被害額は年々増加し2010年には6億円近い被害が報告されている。イノシシによる被害を防止するために地元の猟師は多数の檻を仕掛けて捕獲を行っている。しかし,明確に原因が分かってはいないが,イノシシは檻内に侵入して,檻の仕掛けに掛からず檻内の餌を食べる,あるいは,檻の外に持ち出し食べていることが多く,従来の檻の仕組みでは捕まらない場合がここ数年増加している。そこで,本研究では従来の接触トリガ方式に代えて,電子的な要素を用いた安価な方法を提案し,作物被害を低減させる事を目的とする。

キーワード 離島研究/産業/農業/鳥獣被害/イノシシ捕獲/電子制御/光電センサ

1.はじめに


図1 広島県のイノシシの捕獲頭数と被害額の推移

近年,本校の所在する大崎上島をはじめ全国各地でイノシシによる農作物や人への被害が増加し多数報告されている。害獣として他にもサルやシカなどがあげられるが,農林水産省の報告した平成 22 年度の全国の野生鳥獣類による農作物被害状況[1]によると被害額はシカ 77.5億円(被害額の割合41.5%) ,イノシシ68億円(36.4%) ,サル 18.5億円(9.9%)の順でイノシシはシカについで多い。図1は広島県のイノシシの年間捕獲頭数と農作物への被害額の推移[2]を示す。広島県の農作物への被害額は年々増加し2010年には6億円近い被害が報告されている。
イノシシによる被害を防止するために地元の猟師は人里から離れた場所に多数の檻を仕掛けて捕獲を行っている。しかし,明確に原因が分かってはいないが,イノシシは檻内に侵入して,檻の仕掛けに掛からず檻内の餌を食べる,あるいは,檻の外に持ち出し食べていることが多く,従来の檻の仕組みでは捕まらない事例が多い。本研究では,イノシシが檻に入ったことをトリガワイヤを用いて検知し檻の扉を閉鎖する従来の接触トリガ方式に代えて,電子的なセンサを用いて檻内部への進入を検知し扉を閉鎖する装置を製作する。なお,本研究は地元の猟師の方と共同で行っている。

2.イノシシ捕獲システムの開発

2.1 従来の捕獲機


図2 接触トリガ方式のイノシシ捕獲檻の機構概略図

イノシシ捕獲檻は片側扉式と両側扉式の2種類ある。図2はよく使用されている片側扉式のイノシシ捕獲檻外観図で機構概略図を示す。イノシシ捕獲檻の寸法は,高さ700mm×幅700mm×奥行き1500mmである。従来の檻は,次のような手順でセッティングする。
① トリガワイヤの片方の先端にコの字型トリガをとりつける。もう片方の先端は檻の反対側に固定する。(図2(e)
② ワイヤを扉の突起に取り付け扉を持ち上げる。滑車にワイヤを通しその端を横金具に固定する。(図2(a),(b),(c)
③ 横金具が回転しないように縦金具で押さえる。(図2(d)
④ コの字型トリガで縦金具の下端をはさむようにして固定する。(図2(e))
イノシシが檻の奥に置いたエサにつられて檻の内部に進入し,トリガワイヤに体の一部が触れコの字型のトリガが外れると,縦金具が持ち上がり,横金具が回転し扉を引き上げているワイヤが外れて檻が閉まる。しかし従来のワイヤを用いた仕掛けでは,以下の問題点があり,イノシシは檻内部に侵入してエサを食べる,あるいは檻外部にエサを持ち出す等の場合が多く,檻内部にイノシシが侵入しても捕獲できない場合がある。

2.2 提案する捕獲システム


図3 イノシシ捕獲檻監視システムの概念図

提案するシステムは,電子式を用い,従来のよく利用されている片側扉式の檻の接触トリガ機構部を取り外した檻本体に取り付けて使用する。概念図を図3に示す。電子式の捕獲器は,こちらの知る限り提案されていない。イノシシ捕獲檻監視システムは,イノシシを検知するセンサ,センサの出力の監視及び扉の閉鎖の制御を行うマイクロコンピュータ,モータの制御を行うためのモータドライバ,モータ,扉ストッパ,防水カバーから構成される。マイクロコンピュータがモータドライバを動作させ,モータを駆動し檻の扉を支えているストッパが外れて入口扉が落下して閉鎖して,イノシシを檻内に捕獲する。

2.3 センサを用いた捕獲


図4 センサ配置図

センサは発光等がなく動作音も発生しないパナソニック製焦電型モーションセンサNaPiOnスポット検出タイプAMN13111を使用する。本センサは,焦電効果を利用したセンサであり主に人体検知などに使用されている。センサは背景と検知対象の4℃以上の温度差を検知することで検知対象が検知範囲に進入したことを検知することが可能である。図4のようにセンサ部をイノシシの体高に合わせて取り付ける。これによりセンサの検知範囲に入らないネズミやカラスなどの小型の動物が檻内部に侵入したときには檻の扉が閉まらずにイノシシ程度の大きさの動物が進入したときにだけ檻の扉が閉まるようすることが可能となる。このセンサ位置は変更可能であり,低位置であれば小動物にも反応する。

3.成果


図5 センサ検知範囲測定実験図

図6 実際に使用するセンサ部の検知範囲

センサの検知範囲を絞って使用するにあたって取り付ける円筒の長さによって検知範囲がどのように変化するかを図6のように測定した。センサ部の円筒はセンサの直径が9mmであることを考慮し内径が10mmのものを長さ20mm~50mmに変え使用した。室温25℃の室内において,センサ部を実際に取り付ける檻の側面から反対側までの距離700mmにあわせ検知対象から高さ700mmの位置に固定し床面に方眼紙を敷き,その上でセンサ中心部に向け45°ステップで8方向から検知対象を動かしセンサの反応を記録した。検知対象は高さ150mm×幅75mm×奥行き75mmのアルミ製の容器を表面温度がイノシシの体温39℃より想定した体表温度である36℃になるように温水をいれて使用した。結果,40mm~50mmの円筒を使用したときの検知範囲が使用に適していると判断した。しかし,この長さの円筒を用いるとセンサ部が大きくなり檻の内側にはみ出す部分が大きくなりイノシシに警戒される恐れがある。そのためセンサ部に使う円筒の内径をさらに絞り,内径を10mmのものから5mmのものに変更した。内径を5mmに変更した場合,円筒の長さを長くし過ぎるとセンサの反応が悪くなるためセンサの反応に影響を及ぼさない長さ15mm,内径5mmの円筒を実際に使用した。図6は実際に使用するセンサ部の検知範囲を示す。検知範囲は約100mm×80mmの長方形のような形になっている。
その結果,長さ40mm~50mm,内径10mmの円筒を使用したときと同等の検知範囲を確保し,実際に檻の側面に取り付けたときにはみ出す部分を檻の外側に35mm,内側に10mm程度に留めることができた。

4.まとめ

本研究では捕獲檻に進入したイノシシを捕獲するために,従来の接触トリガ方式の捕獲方法の持つ欠点を改善するため,焦電型赤外線センサとマイクロコンピュータ及び扉閉鎖機構操作部にモータを利用した電子式イノシシ捕獲檻を製作した。センサは検知範囲を絞り,檻の側面にある程度の高さをもたせ,取り付けて使用する。それにより小動物が進入しても檻の扉が閉まらず,イノシシ程度の大きさの動物が檻内に侵入したときだけ檻の扉を閉鎖することを可能とした。今後は製作した電子式イノシシ捕獲檻の実証実験を行い,有効性を確認したい。

参考文献

[1] 農林水産省 野生鳥獣による農作物被害の推移(鳥獣種類別)
[2] 大崎上島町役場,平成21 年度有害鳥獣捕獲実績

(原稿受理:2014年2月 公開日:2014年3月28日)

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