国立広島商船高等専門学校
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大崎上島研究

大崎上島研究における基礎的調査
―関連文献リスト作成に伴う地域住民の聞取調査と史跡調査―

中道 豪一(流通情報工学科)

概要 本事業は平成24年度日本教育公務員弘済会から研究助成を受けた「大崎上島研究の課題と展望-学校教育・学術研究・地域連携への提言-」の成果を基盤に構築・運営されたものである。平成24年度に調査を進める中,大崎上島における歴史伝承体制の陥っている危機的状況が課題の1つとして浮上した。当初,平成25年度は,大崎上島における近世から近代における宗教文化研究(厳島神社)のフィールドワークを予定していたが,平成24年度の成果を受け,歴史伝承体制改善に関連した研究に方向転換した。そうして完成した具体的成果の1つが「大崎上島関連文献リスト(研究書・研究論文・一般書等を網羅)」である。研究者のみならず,修学旅行の調べ学習・観光の下調べにいたるまで,大崎上島に関する知識を得るための媒体を紹介するもので,現在(平成26年2月1日)も改訂作業を継続させている。本報告書は,そのリスト作成にあたり実施した聞取調査・史跡調査,それに伴う諸業務について報告するものである。

キーワード 研究/教育・文化/大崎上島/文献リスト作成/聞取調査/史跡調査

1.はじめに

大崎上島に関連する先行研究は,歴史・農業・漁業等さまざまな分野において存在する。また観光案内・名所案内といった類の書籍も少なからず世に出されている。そうした業績にアプローチしようと思った際,参考になるのがWebサイト「島の図書館」(1)である。大崎上島に関連する50点ほどの書籍紹介・Webサイト・フォトギャラリーで構成されており,なかなか充実したものとなっている。また大崎上島の住民が作成する「大崎上島備忘録」(2)も,豊富な写真や現地情報によって構成されたサイトであり,大崎上島の現状に触れるにはたいへん貴重な存在であろう。また国会図書館をはじめ,公共図書館の蔵書検索,国立情報学研究所の横断検索といった検索システムもアプローチ支援としては有効である。よって,こうしたサイトの存在をもって,アプローチに便宜を図るという目的は達せられるとの意見もあろうが,それに頷くことはできない。なぜならば平成24年度,先行研究・文献を紐解き,聞取調査を進めた結果,こうしたサイトや検索にかかりにくい多数の書籍・論文の存在を確認したからである。この状況を端的に表現すると「せっかく大崎上島に関する書籍・成果があるにも関わらず,その存在がアプローチを試みる者に届きにくくなっている」ということになろう。つまり大崎上島振興・研究のために歴史や伝統を調べようと思っても,その基盤が脆弱であるため,調査者に大きな負担を強いている現状を確認できるのである。これは平成24~25年度にかけて行った聞取調査で強く実感した事実でもある。そこで報告者は,そうしたリストを作成し公開することが,研究・調査はもちろん観光や地域振興において必要とされる情報を提供するきっかけになるのではないか?と考え,その作成と,それに必要な諸調査を実施した。
(1)http://www.geocities.jp/shimatosyo/setonaikai/rist_se/0148oosakikamijima.htm
(2)http://waqwaq500.blog.shinobi.jp/

2.事業内容

2.1 聞取調査

リスト作成の方向性も,大崎上島町民からの聞取調査によって構築されたものであるから,本事業の根幹をなす業務であるといえる。
平成25年度の調査において,特に協力を仰いだのが大崎上島在住の郷土史家金原兼雄氏と自営業者取釜宏行氏である。両者の人物選定は平成24年に行った授業で大崎上島の歴史を扱った際,本学学生(当時流通情報工学科4年)が仲を取り持ってくれたことに端を発する。(まだCOC事業採択前の平成24年5月26日『中国新聞』における両氏の記事が発端)金原氏は大崎上島の文化財保護委員を長年務め,島の文化財保護に尽力してきた人物であり,取釜氏(文化財保護委員)は金原氏の調査結果を後世に残そうと活動している人物である。
本年度,注力したのは金原氏の活動を記録・整理・評価することであった。氏の活動成果は広範にわたるため,その全てを網羅するのは困難である。そこで島の高峰「神峰山」をめぐる呼称改変事件を中心に,氏の業績を精査し評価を試みた。この業務は平成24年から継続させているが,氏が高齢であることから急を要するものと考える。
なおこの成果の一端を発表したものが,平成24年に日本教育公務員弘済会から研究助成を受けた「大崎上島研究の課題と展望-学校教育・学術研究・地域連携への提言-」である。
また金原・取釜両氏以外にも多くの住民から貴重な情報を提供して頂いているが,紹介しきれないため,本学に関係する事例から数点を列挙する。「情報と社会」(流通情報工学科2年)で大崎上島の文化を紹介した際,島在住の複数の学生から書籍や情報提供があったこと。本学職員長谷川素子氏からは,折に触れ島の地理・文化・習慣の教示を頂いていること。元本校教員森宗一氏(現別府大学講師)が,大崎上島の歴史について研究を重ねていたことから,大いに示唆を受けたこと等があげられる。

2.2 史跡調査

随時,大崎上島の住民をはじめ教職員の協力を得て,神峯山を中心とする史跡調査を行っている。(なお元本校教員森宗一氏の指導した書道研究会では,商船祭において大崎上島の歴史調査の成果を発表している)特に報告者が注力しているのは,島の数か所に鎮座する厳島神社である。大崎上島には廿日市市の厳島神社で祀られている祭神の元宮伝承があり,大三島の大山祇神社との関係も含め,歴史的にも信仰的にも非常に興味深い事例である。そして御串山八幡神社における神功皇后伝承をはじめ,神社に付随する諸伝承を含めて,継続的な調査を進めている。そうした調査の一方,自治体等の開催する説明会にも積極的に参加するよう努めている。平成25年度は本学事務職員内海良介氏の協力で,平成25年7月27日(土)に実施された「葛城跡」の遺跡見学会に出席した。(主催:公益財団法人広島県教育事業団,大崎上島町教育委員会)「葛城跡」は沖浦に所在し,発掘調査により土師質土器(皿・鍋),須恵質土器(擂鉢),備前焼(甕)などが出土しているが,道路拡張工事でその姿を消すことが決定している史跡である。大崎上島では製塩に使われたという師楽式土器も出土しているが,そうした考古学的業績を含めた大崎上島史を考えるにあたり,こうした史跡調査は必須である。また調査を進めるにあたって,島内の忘れ去られた史跡の存在も耳にしている。ただし,この調査には発掘人員や文書調査などが必要となり,現時点では予算も人員も不足しているため,構想にとどめている。

2.3 分析・リスト作成

報告者をリーダーとし,中西正幸氏(國學院大學大学院教授)より離島の祭祀文化研究について研究会合を重ね,吉野亨(國學院大學大学院特別研究生)を研究補助員として作業を進行させた。具体的には「先行研究の読み込み・分析」と「関係文献リスト作成」である。300点ほどの書籍を「市町村誌」「市町村資料」「歴史・民俗」「伝承・民話・方言」「農林水産業・工業」「離島振興」「観光」「食文化」といったカテゴリーで分類し,著者・編者,出版社・団体,出版年,備考を記した。なおこの作業は,単に検索サイトからの引用にとどまらず,そうした検索にかからない書籍・論文も列挙している。そのために文献を実際に紐解き,関連業績をリストアップしているので,かなりの作業時間を要した。

2.4 成果発表・研究者間交流

平成25年度は,こうした研究成果を積極的に発表し学問的分析の深化,状況の宣伝に努めた。以下,学術的な成果発表を3点,研究者間交流の実績を2点,学校教育への活用を1点あげる。
國學院大學院友学術振興会(國學院大學で博士号を授与された者だけが所属する研究者組織)の6月22日に開催された総会において「大崎上島研究の課題と展望-学校教育・学術研究・地域連携への提言-」という学術発表を行い,日本文学・言語学・民俗学・神道学といった各研究分野の大家からの指摘を頂いた。
広島大学に事務局をおく芸備地方史研究会の創立60周年記念大会(平成25年7月7日)では「厳島神社本殿における祭式行事作法の特殊性と祭神移動について」を発表。大崎上島の厳島伝承を分析するにあたり必要となる廿日市市の厳島神社についての研究成果を発表した。なおこの学術発表は新出史料を用いていることが特徴であり,同年10月には「厳島神社本社における祭式行事作法の特殊性について-初申祭の考察を通して-」という論文として『新国学』復刊9号(平成25年10月)に発表済である。
研究者間の交流としては,平成25年10月5日に開催された広島民俗会第82回研究会への出席があげられる。これは報告者が史料収集において協力を依頼している「あき書房」(広島市南区)の紹介によるもので,広島で民俗研究を行う研究者と交流を持ち情報交換を行った。さらに平成25年9月8日に開催された日本宗教学会第72回学術大会においては,関東で文化人類学・民俗学を担当している教員と交流をもち,大崎上島の事例を紹介してもらうよう要請している。
またこうした研究成果は,報告者の担当する授業で迅速に活用することにしている。具体的対象は「情報と社会」「経営倫理」の2科目である。「情報と社会」においては,本校に存在するとある噂が,実は大崎上島の歴史事件と考古遺物の情報が交じり合い形成されたものであることの指摘をはじめ,大崎上島における地域情報を随時紹介している。また「経営倫理」においては,企業特性の考察に先立つ学習として,大崎上島の歴史や風土を紹介している。

表1 大崎上島関連文献リスト

3.成果

「大崎上島関連文献リスト(研究書・研究論文・一般書等を網羅)」を作成した。備考欄に必要事項を記入するなど現在も改訂を重ね,改良を重ねている。またその派生作業として,史料・研究書に記載されている関連個所を抜粋した「大崎上島関連文献抜書リスト」も順次作成中である。

4.まとめ

報告者は当該研究をCOC事業採択以前から進めていたため,本報告書に記載しきれぬ研究も存在するが,緊急度の高い当該研究を事業関連研究とし,ここに報告するものとする。本校着任以降,大崎上島研究を進めてきたが,そこで目にしたのは広島県の他地域にも増して存在する危機的な文化伝承状況であった。そしてこれは考えすぎかもしれないが,この危機的状況について,現状分析が些か楽観的すぎるのではないか?という危機意識が偽らざる感想として存在する。この危機意識が報告者を研究に駆り立てている部分は少なくない。廿日市市・竹原市の文化伝承について調査を進めているが,大崎上島をそうした地域と比較しても,明らかに危険水準に達しているとしか考えられないからである。
そこで報告者が提案するのが,絶対的な文化伝承ラインの構築であった。現時点(平成26年)では,まだ古伝承を知る住民が残っているものの,20年後にこの状況がどうなっているかは想像できない。そこで平成25年までに大崎上島について研究・言及された業績を明確にし,未来に伝える必要があると考えたのである。その道筋さえ明らかにすれば,調査・研究・調べもの学習・観光・その他活用に便を供することができる。課題も存在するが,これがこれまで調査・研究を重ね,大崎上島の住民と接し,この土地を愛してしまった研究者の一提言である。
最後にこれからの展望を2点ほど指摘する。
1つは「関連文献リスト」に古文書・古記録を加えていくことである。それによって広範,かつ詳細なアプローチが可能となる。ただし各家・資料館などに所蔵されている未翻刻の古文書・古記録に関しては,現時点において全く着手していない。将来的には最低限,そうした古文書・古記録の所在だけでも記録できればと考えている。
2つは関連文献リストに加え「民俗資料リスト」の作成にも取り掛かりたいということである。民俗資料リストとは,研究書・研究論文・一般書といった書籍ではなく,写真やチラシといった資料,さらには民具などのリストである。もし可能であれば,そうした民俗資料を撮影・データ化し公開できるよう考えているが,最低限そうした資料の存在を記録する段階までは進行させたい。また古老や詳しい人物の話を記録した音声資料・映像資料の作成も視野に入れている。

(原稿受理:2014年2月 公開日:2014年4月1日)

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