国立広島商船高等専門学校
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スマートフォン用物理教材

物理・学習到達度試験のためのスマートホン用電子教材の開発

藤原 滋泰(一般教科)

概要 近年,スマートフォンやタブレットを用いた新しい教育テクノロジーに注目が集まっている。特に, 当校の様に島嶼部にある学校において, スマートフォン上で動作する教材は, 通学生達がフェリーや港の待合室等で, ちょっとした隙間時間に効率良く学習を行うのに有用性が期待できる。そこで, 高専の学習到達度試験対策の過去問演習の電子教材の開発と配信を行い, 使用状況や学生達からの評価等について, 調査・分析を行った。今回, 新たに製作した電子教材は, フォントの大型化やカラー図解などにより, 見易さや分かり易さに配慮したことに加え, 卒研生達が自らの受験経験も交えながら開発を遂行した。

キーワード 電子書籍/卒業研究/学習到達度試験/スマートフォン/タブレット

1.はじめに

国立高等専門学校では, 毎年1月に3年生に対して, 全国統一の数学と物理の学習到達度試験を実施している。当校の物理の学習到達度試験対策では, 1~2年次に掛けて行った定期試験や演習プリントの問題, 学習到達度試験の過去問の解答解説で構成された「学習到達度試験対策問題・解答集」が学生達に配布され, 各科の担当教員によって指導が行われている。
ここ数年の携帯電話からスマートフォンへの移行期という時代の流れを鑑みて, 携帯型タッチ端末での新しい学習スタイルを知り, 興味・関心を持って貰い, 学習効果や学習意欲を向上させることを目的に, 「平成24年度学習到達度試験(物理)過去問演習」1)の電子教材を開発した。開発は卒業研究として行われ, 既刊の電子書籍「平成19~22年度(物理)学習到達度試験過去問題と解答」1-2)で得た技術の蓄積と学生達の要望を取り入れ, 見易さと学び易さが大幅に向上した仕上がりとなった。
勿論, 問題を解く際に紙と鉛筆が必要なことに変わりは無いが, 離島にある本校に通学する学生達が, フェリーの乗船中や港の待合室などで, 場所と時間を選ばずにスマートフォンで効率的に学習できるメリットは大きく, タッチして次々とページをめくって行けるので, 素早く概要を掴んだり, 反復学習を行うのに大きな有用性が期待出来る。
学習到達度試験後に行った任意のアンケート結果から, 学生達の電子教材に対する興味・関心や使用状況,今後の課題などについて報告する。

2.電子書籍の作成手順と概要

電子書籍の元々の原稿は, 見易い大きなフォントに調節を行う為に, Wordで組版した。Wordのファイルをpdfファイルとして出力し, 全ページを1ページずつjpg形式のファイルに変換した上で, epub形式の電子教材を生成するソフトウェア「chain LP」3)に読み込ませ, 目次の作成や解像度の調整(iPhone5用には解像度1136 × 640)等を行った。
今回, 電子書籍を作成するに当たり, 前作1)までの“字が小さくて見にくい”という問題を解決すべく, 文字を22ptに大型化し, カラー化も行い, 視認性を大きく向上させた。
解答・解説は独自に制作したものを使用した。解答・解説を作る際には, まず使う公式や法則, 考え方を示し, 問題文で与えられた数値が代入される様子を分かり易く解説し, 丁寧な計算過程を見て貰える様に工夫した(図1)。
“公式”や“考え方”を表示する際は, 図1の様に,解答文(黒字の明朝フォント)との区別をつき易くする為に, 濃紺のメイリオフォントを使用し, 枠で囲った。さらに, 図の作成においては図2の様に,力の種類ごとに色分けを行う等の工夫も凝らした。

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図1 電子教材の公式の一例

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図2 電子教材のカラー図解の一例
(力の種類ごとの色分け)

また, ハイライト(図3)やブックマーク(図4), メモ,(図5)を加えながら, タッチ操作でスピーディーにページをめくっていけるという, 電子教材ならではの利点を最大限に生かすべく, 問題文と解答を交互に配置した。
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図3 電子教材・内容のハイライト

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図4 重要事項のブックマーク

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図5 メモの一覧表示

3.電子書籍の取り込み手順

iPadやiPhoneに電子書籍(epubファイル)を取り込む手順は以下の通りである。Androidやパソコンに取り込む場合は, 配信ホームページの取扱説明書1)をご参照されたい。
手順1) iBooks等のアプリケーションを“iTunes store”から, iPadやiPhoneにダウンロードする(自動的にインストールもされます)。
手順2) Yahoo!やgoogleなどの検索サイトで“到達度試験 物理”,或いは“藤原滋泰”等で検索し, 専用の配信ホームページをタップする(検索後, 上の方に表示されます)。
手順3) 図6の様に, 一番上に記載されている, 「平成24年度学習到達度試験(物理)過去問題と解答」のファイルをダウンロードし, iBooksアプリケーションから開く(図7)。

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図6 電子教材の配信ホームページ

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図7 電子教材のスマートフォンへの取り込み

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図8 電子教材の目次

4.アンケート結果と分析

学習到達度試験終了後, 任意のアンケートを実施した。紙面の制約上,一部を抜粋して紹介する。まず, タッチ端末の所持者は約82%(89人)であり, 非所有者は約18%(19人)であった。

4.1 スマートフォン等のタッチ端末の所有学生へのアンケート

電子書籍に「興味が持てたか」というアンケートの回答結果は, 図9の様になった。図9の上段の棒グラフに見られる様に, 電子教材に「大変興味を持った」,「興味を持った」と答えた学生は合計46名,「どちらとも言えない」と答えた学生は16名,「あまり興味を持てなかった」,「興味を持てなかった」と答えた学生は合計26名であった。
一方, 図10に見られる様に, 電子教材を実際に使ってみたという学生は「使ってみた」と「少し使ってみた」を合計して31名であり,「使わなかった」と答えた学生53名を下回った。よって, 電子教材に興味は持てたが,スマートフォン等に取り込んでまでは使用しなかったという学生が多くいたことが推察できる。この原因としては, 特にAndroid系のスマートフォンに取り込む手順が少々面倒である事と, 物理の到達度試験の点数が成績評価に入らず, 試験勉強の意欲を持ちにくくさせているということが考えられる。
図11の様に, 電子教材を活用した学生達の内,「大変役に立った」,「役に立った」と答えた学生が合計23名,「どちらとも言えない」と答えた学生が7名,「あまり役に立たなかった」,「役に立たなかった」と答えた学生は2名であった。このことから, 実際にスマートフォンに取り込んで学習し始めてみると, 約72%の学生達が,役立ったと実感していることがわかった。

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図9 物理・電子教材への興味に関するアンケート調査

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図10 スマートフォン所持学生への電子教材の
活用有無のアンケート調査

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図11 電子教材を活用した学生に対するアンケート調査

4.2 スマートフォン等のタッチ端末の非所有学生へのアンケート

タッチ端末の非所有者については, 図9の下段の棒グラフに示されている様に, 電子教材に「大変興味を持った」,「興味を持てた」と答えた学生は合計3名,「どちらとも言えない」と答えた学生が5名,「あまり興味を持てなかった」,「興味を持てなかった」と答えた学生は計11名であった。この結果より, スマートフォン等を所有していない場合には, 興味を持ちにくいということが分かった。

4.3 学生達の感想

アンケートの解答理由や感想の中から, 以下に代表的なものを一部抜粋して列記する。
①興味をもてた理由
・紙にすると量が増え, 持ち運びが大変なので, 電子化は良いと思った。
・高専の勉強に特化している教材は少ないから。
・現代風な感じで良かった。・どんな問題が出そうか傾向がわかるから。
・テスト勉強をするため。
・いちいち持ち歩いたりする必要がなく便利だから。
②使ってみた理由
・今までになかったから新鮮だから。あと, 手軽である。
・寝ながら見れる。・移動しながら見て勉強できるから。
・電車の中など待ち時間に使えた。
・カラーで作られていて, 非常に見やすかった。・持ち運びが便利で見易い。
③役だった理由
・図や色があって分かりやすかった。
・ひまな時間で勉強することができた。
・ポイントや注意点等がすっきりまとまっており,とても見やすかったから。
・ひまな時に勉強をし易くなったから。・公式がまとめられていたので。

5.卒業研究生のシンポジウム発表

第15回IEEE広島支部学生シンポジウムの論文集に, 卒研生(藤原研究室)の松永和樹学生, 平野桃子学生, 松浦歩学生, 篠原望眞学生の卒研内容の論文3本が審査を経て採択された4-6)。昨年11月に鳥取大学で行われたシンポジウムのポスター発表(写真1)では, 他大学の学生や, 他高専の先生方から,公式・途中式などの使い分けについてのご意見とご好評を頂いた。特に,高専の先生からは, 電子書籍の教育効果や作成方法などについての熱心な質問を受けた。
篠原学生の製作した「ecoワークシート」は,流通情報工学科1年生の「高校生懸賞論文コンテスト(電気学会)」参加賞(28名受賞)に貢献した。松永学生の「学習到達度試験(数学)の過去問演習」の電子教材も配信用ホームページ1)より,近日公開予定である。

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写真1 卒業研究生のシンポジウム発表

6.まとめ

アンケート結果より, 電子書籍という新しい教材に興味・関心を持ってもらい, 学習到達度試験の試験対策に役立ててもらうという教育効果は少なからずもたらされたことが判った。
物理の学習到達度試験の平成25年度の全国得点平均は178.6点であり, 昨年度比で6.2点下降した。それに対して, 当校の得点平均は66.6点であり, 昨年度比で28.4点も上昇した。補習や“微積と力学”の領域での数学科との連携等,様々な要因が考えられるが, スマートフォンの普及と過去問演習の電子教材の活用者数の増加も, 好結果の一因として考えられる。
今後の課題としては, ①電子教材ならではのリンク機能を用いて,同じ単位を持つ物理量同士を関連付ける解説も行い, 忘れにくくなる様に再設計する②実験動画や3Dウィジェットなどのメディア機能を多用し, 知的好奇心を引き立てながら,イメージ豊かに解説する③普段から電子書籍を活用して貰い, “活用が定着する試み”を行うこと等があげられる。

参考文献

1) http://dep.hiroshima-cmt.ac.jp/~general/staff/fujiwara1.htm(開発した電子書籍の配信用ホームページ) 参照日 2014.02.07
2) 藤原滋泰, 電子書籍による物理の学習到達度試験対策の試み:独立行政法人 国立高等専門学校機構/論文集「高専教育」第36号 pp.145-150, 2013-3
3) http://no722.cocolog-nifty.com/blog/chainlp/ 参照日 2013.06.24
4) 松永和樹, 藤原滋泰, 数学の学習到達度試験対策の電子書籍の開発: 第15回IEEE 広島支部 学生シンポジウム 論文集, pp.335-337, 2013-11
5) 平野桃子, 松浦歩, 藤原滋泰, 物理の学習到達度試験対策の電子書籍の継続的開発: 第15回IEEE広島支部 学生シンポジウム 論文集, pp.340-341, 2013-11
6) 篠原望眞, 藤原滋泰, エネルギー環境教育の実験教材とワークシートの開発:第15回IEEE広島支部学生シンポジウム論文集 pp.360-361, 2013-11

(原稿受理:2014年2月 公開日:2014年4月2日)

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