国立広島商船高等専門学校
文部科学省 地(知)の拠点

MENU

脳波センサを利用した教育

簡易脳波センサを利用した教育・研究活動

大和田 寛(電子制御工学科)

概要 近年,ヘッドフォン型の簡易型脳波センサが開発され,比較的容易に脳波のリアルタイムでの「集中度」や「リラックス度」等の生体情報の非侵襲計測が可能となっており,これら脳波データを利用したアプリ制作や機器制御等の研究・開発が行われている。本研究課題では,この脳波センサを学生の卒業研究等に利用し,研究活動等への教育効果に関する検討を行った。その結果,親しみやすいゲームというコンテンツを足掛かりとして,生体計測技術やプログラミング技術等の向上と,様々な科学技術への興味関心をより高めることができる可能性を示した。また,地域貢献活動として離島中学校の技術教育や生涯学習支援に貢献できる可能性についても示した。

キーワード 脳波/ゲーム/技術教育

 1.はじめに

脳波とは,人間の脳の電気活動を計測したもので,頭皮に電極を当てて測定する脳波を
EEG ( Electroencephalography ) という。EEGの計測では,10 – 20 法に基づき,電極を頭皮の20箇所に設置し,片耳の基準電極との間の電位変動を計測する。
近年,電極が2つのヘッドフォン型の簡易型脳波センサが開発され,比較的容易にリアルタイムで脳波の「集中度」や「リラックス度」等の非侵襲計測が可能となっており,これら脳波データを利用したアプリ制作や機器制御等の研究・開発が行われている。
本研究課題では,この簡易型脳波センサを利用し,生体計測技術や信号処理技術,プログラミング技術等の習得のため,実験実習や卒業研究において教育・研究活動に利用している。今回,脳波データを利用したゲームを制作し,研究開発を行う際の教育効果や,これら作成したゲームを用いて離島中学校の技術教育や生涯学習支援に貢献できる可能性について検討した。

2.教育研究内容

2-1 簡易脳波センサについて

使用する脳波センサは,図1に示す米NeuroSky社開発の脳波センサーモジュールを搭載した脳波測定ヘッドセットMindWave Mobileである。MindWaveはBluetooth機能で無線通信を可能としており,充電式ワイヤレスヘッドホンに似た形状をしている。またMindWaveの自重は 90g 程度であり,比較的簡単な運動であれば,運動負荷中における脳波データを計測も可能である。脳波を測定する電極は2個で,1つは前額部中央部,もう1つの基準電極は左の耳垂(耳たぶ)にクリップで挟んで測定する。この2箇所の電極間での電位差を計測し,内部に搭載されている回路で信号を計測・処理し,Bluetooth通信でPCにデータを送信する。センサ内で解析された脳波データは,「集中度」と「リラックス度」という0 ~100の値で出力されるが,解析ツールを利用すれば,rawデータの計測も可能である。
noha1

2-2 脳波を利用したゲームの研究開発

ゲームの開発には,Unityを利用した。Unityとは,マルチプラットホーム(Windows,iOS,Android等)でゲームやインタラクティブコンテンツを制作するための開発環境である。このUnityを利用してゲームを作成し,ゲームにおける様々な要素やゲームをコントロールするパラメータに,脳波センサから計測された集中度を取り入れた。図2に示すように,ゲームプレイ中は常時脳波計測を行い,得られたデータを解析後,ゲームのパラメータとして取り入れることによって,これまでにない遊戯性を持ったコンテンツの作成が可能になると考えられる。
noha2

3 .成果

3-1 脳波を利用したゲームの研究開発

図2に示すようにゲーム中にリアルタイムで脳波を計測し,得られた脳波データの「集中度」をゲームの各種のパラメータに応用して,以下のようなゲームを作成した。
(1)ブロック崩しゲーム
従来からあるブロック崩しゲームに,脳波データの利用を試みた。ゲーム中に計測された脳波の集中度を,UnityのC#スクリプトに0~100%の値でゲームに取り込み,脳波の集中力の大きさによって,ボールを跳ね返すバー(図3下側)の長さが変化するプログラムを作成した。これによって,ゲームに集中し続けなければ操作バーが短くなってしまうため,従来のブロック崩しでは経験できない難易度を楽しめるゲームとなった。
noha3
(2)レースゲーム
キーボードを操作して,コース上に出現する他の車両を避けていくゲーム(図4参照)をUnityで作成した。ゲーム中に計測された脳波の集中度を0~100%の値でゲームに取り込み,得られた集中力の大きさによって車の速度を制御した。例えば,脳波の集中度が30%を超えたら車が前進するようなスクリプトを作成すると,集中力が30%以下の時は全く車が前進しないので,思い通りに速度を制御するのが難しくなり,従来のレースゲームとは操作性が大きく異なるゲームを作成することができた。
noha4
(3)2Dシューティングゲーム
キーボードの方向キーを使って自機を操作し,敵機を破壊してスコアを競うゲームを作成した。ゲームでは集中力に応じた弾数が生成されるような設定にし,ゲームに集中するほど弾が多く発射され,ゲームが有利に進むようにした。これによって,操作の俊敏性よりも集中度が重要視されるゲームを作成することができた。またゲームに慣れて集中力が低下すると,弾数が減ってしまうので,これまでとは異なる難易度が要求されるとともに,この集中度の変化によってプレイヤーの慣れを数値化できる可能性がある。すなわち,プレイヤーの慣れを検知し,プレイヤーの状態によって次のステージに移行する等のこれまでにないゲーム展開が可能になると考えられる。
noha5
(4)3Dシューティングゲーム
3DシューティングゲームとしてFPS(一人称視点)のガンシューティングゲームを作成した。操作キャラクターの移動はキーボードの十字キーもしくはA,S,D,Wキーを使用し,画面の移動はマウスを使用した。敵はフィールド内に5秒に1体出現させ,操作キャラクターを捕捉し,接近するようプログラムした。
脳波情報は銃を撃つトリガーとして使用した。ゲーム中に計測された脳波の集中度を0~100%の値でゲームに取り込んだ。脳波を1秒間隔で計測し,集中度が50%を超えていれば銃を撃つことができるようにプログラムした。
これによって,敵に集中していないと,敵を倒すことができなくなるので,より集中してゲームをプレイすることが要求されることになる。このように,集中して真剣に遊ぶことの楽しさを知ることができると考える。
noha6

3-2 脳波情報を利用したゲームとその効果について

ゲームプレイ中にリアルタイムで脳波を計測し,得られた脳波データをゲームのパラメータに応用した。脳波情報としてゲームプレイ中の「集中度」を,ゲームの様々なパラメータとして取り入れることによって,これまでとは違った面白さや遊び方の提案ができたと考えられる。なお,これらの作成したゲームは,平成27年度の学園祭やオープンスクールで展示を行った。来場者には実際にゲームを操作していただき,これまでにない新しい体験ができたものとして,来場者に概ね高評価を頂けたようである。
一方,簡易脳波センサによるおおまかな脳波計測であるため,自分自身で理解している集中度と,実際に測定された集中度に明白な相関がなく,始めて使う場合は,自分では集中しているつもりでも,ゲームでは思い通りには反応しないといった難しさが見受けられた。これら集中度の再現には個人差もあり,脳波を自分の思い通りに制御することは難しい。これについては,集中度を自分の意志である程度制御できるようになるために,訓練の必要性があると考えられる。さらに,よりプレイヤーの状態を明確に判定するため,「リラックス度」といった集中度以外のパラメータを利用したアルゴリズム等の検討も今後必要である。
また,このようなゲーム作成によって得られた知見は,例えば身障者用の携帯向けアプリの研究開発への応用も期待できると考えられる。例えば,集中度の有無によって,画面のタップを制御するといった技術へ応用できる可能性もあり,今後簡易脳波センサの可能性についてのさらなる検討が期待される。
今回は,教育効果を図るアンケートを実施しておらず,教育効果に関する定量評価はできなかったが,オープンスクール等での来場者からは概ね高評価を頂き,またゲームというコンテンツ作成ということもあり,作業自体も学生自ら主体的に行っていたようである。このように親しみやすいゲームをきっかけにして,生体計測技術やプログラミングの技術や科学への関心を高め,それによって近年,理科離れが指摘される若年層に,良い影響を与えられる可能性もある。今後,地域社会の理科教育や生涯教育支援に貢献できるようなアプリについての検討を行っていく予定である。

4.まとめ

ヘッドフォン型の簡易型脳波センサを利用したゲームを開発した。脳波情報として集中度を利用し,ゲームの各種パラメータに応用した。その結果,脳波という新しい生体情報を利用したインターフェースの利用によって,これまでにない新しい遊戯性の可能性を示すことができた。また,学園祭等の参加者やオープンスクールの展示では,来場者に実際に操作していただき,これまでにない新しいゲーム体験ができたものとして,体験者からは概ね高い評価を得ることができた。
これらの結果から,親しみやすいゲームというコンテンツを足掛かりとして,生体計測技術やプログラミング技術等の科学技術への関心を高めるような教材開発の可能性を示すことができた。
今後,今回の検討で得られた簡易脳波センサとしての利点と問題点を考慮し,教育や地域貢献に応用できる研究テーマや教材作成について検討していく予定である。

参考文献
1)NeuroSky Webサイト,http://neurosky.com/biosensors/eeg-sensor/biosensors/,NeuroSky , 2016.1確認
2)ユニティWebサイト,http://unity3d.com/jp/unity/,Unity Technologies, 2016.1確認
3)安部弘通,高野茂,馬場謙介,村上和彰:簡易脳波センサを用いた行動認識に関する研究, 情報処理学会 九州支部火の国シンポジウム2014, 2014.03.05.
4)鄭昇吏,黄宏軒,川越恭二:スポーツメンタルトレーニングへの応用を目指した脳波利用の音楽推薦システム,第76回全国大会講演論文集,1号, pp.623-624, 2014.3.11
5)牧義人,中村剛士,加納政芳,山田晃嗣:簡易な脳波センサにおける開眼・閉眼の影響の調査, ファジィシステムシンポジウム講演論文集,No.28, pp.631-636, 2012.9.12-14

(公開:平成28年4月)

PAGETOP
Copyright © 広島商船高等専門学校 All Rights Reserved.