国立広島商船高等専門学校
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放射線教育用電子書籍

卒研生による放射線教育の電子書籍の開発と
中学校での主体的な教育実践

藤原 滋泰(一般教科)・馬場 弘明(地域連携コーディネータ)

概要 次世代を担う中学生達に対し,過度の不安を持たれる傾向にある放射線について,正しい知識を身に付けさせ,理解を深めてもらうために,竹原市立忠海中学校大崎上島町立大崎上島中学校にて各2回(合計4回),放射線についての実験授業を行った。
実験授業に際しては,教員が一方向的に教えるだけの従来の教授法ではなく,卒研生が自ら開発した教材を実践的に活かしながら,学生目線で中学生達に問い掛け,議論し合い,双方向的なやりとりを通して,主体性を発揮する授業を試みた。
アンケートの結果から,効果的な放射線教育の在り方について研究すると共に,卒研生が主体性を発揮して教え,中学生達がアクティブに学ぶ出前授業の教育効果について議論する。

キーワード 卒業研究/放射線教育/中学校への教育支援/電子書籍/霧箱の工作

1.はじめに

東日本大震災により,福島第一原子力発電所で事故が起き,大量の放射性物質が広範囲に拡散するという被害が生じた。それと同時に, 被災地域に対する風評被害や偏見等の問題も発生している1)。また,一般的に原子力発電所から出た高レベル放射性廃棄物を処分するには,30~50年間冷却した後に地層処分することになるので,次世代に渡る長い年月を要する2)-3)。
このような現状を踏まえて,原子力に深く関わりがあり,実際に危険ではあるが,正確な知識が無いまま過度に恐れられていると思われる放射線について,竹原市立忠海中学校(平成26年7月8日と15日の2日間)と大崎上島町立大崎上島中学校(平成26年12月2日と9日の2日間)で実験授業を実施した。実験授業に際して,次世代を担う中学3年の生徒達が分かり易く学べる電子書籍を開発し,放射線の計測や霧箱の工作実験と連動させ,効果の高い放射線教育のあり方について研究した。また,流通情報工学科の卒研生(田淵友也学生と梶井一志学生)が主体性を発揮する形式の出前授業の教育効果についても議論する。

2.電子書籍の開発

まず,電子書籍の制作には,iBooksAuthor4)というMac用のソフトウェアを使用した。制作手順は以下の通りである。
1) 原稿を執筆する(必要な資料をまとめる)。
2) Wordのクリップアートから画像を検索し,中学生が分かり易い素材を用意する。
3) 図1のように原稿と素材を組み合わせてレイアウトする(iBooks Authorへクリップアートをコピーする)。
4) インタラクティブ要素を加える(クイズ形式の練習問題ウィジェットを作成)。
5) 用語集をまとめる。
6) 表紙や目次を作る。

3 電子書籍を用いての放射線の解説

両中学校とも1時間目は,卒研生が主体となり,卒研で開発した電子書籍を用いて,中学生達に問い掛けながら放射線の解説を行った(図1-2)。
まず,放射線自体は日常生活で自然に浴びている物であり,カリウム40を含む食物(干し昆布,干し椎茸,ポテトチップス,ほうれん草,牛乳等)や呼吸により取り入れられるラドンからの放射線,大地や宇宙線からの自然放射線等,身近に存在していることを説明した(図3-4)。
その上で,放射線の被曝量と急性障害について具体的な数値を示し,どの程度なら安全で,どの程度で人体にどのような影響が出るのかを紹介した(図5)。
更に,医療分野での病気の診断や癌治療放射線による癌細胞の破壊,農業分野での品種改良や害虫駆除,工業分野での非破壊検査や材質強化等に放射線が利用されて役立っていることも紹介した(図6)。最後に,練習問題ウィジェットを用いたクイズ形式の理解度チェックも行った(図7-8)。

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4 身近な放射線の測定

放射線を出す物質が,私達の身近に沢山存在していることを実感するために,以下の手順で放射線の計測実験を行った(図9)。その際,昨年度の卒研生が製作した計測ワークシート5)-8)を忠海中学校用に改良したものを使用した(図10)。卒研生達は,中学生達がアクティブに実験に取り組めるように,介入のタイミング等に気配りし,質問し易い親しみのある雰囲気で,的確な指導を行った(図11-12)。

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1)自然放射線の測定:周辺の空気中に,どの位の放射線が飛んでいるのかを測定する。
2)測定試料を使った放射線の測定:湯ノ花,カリ肥料,塩,ランタンマントルの放射線を測定する(図11)。
3)校舎地区建物等の放射線の測定:校舎地区の石碑や石垣,花壇等,タイヤ等の放射線を測定する(図12)。

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5 簡易霧箱の工作と放射線の観察

2時間目は,電子書籍による霧箱の解説(図13)を行った後,目に見えない放射線を実感する為に簡易ケース霧箱5)の工作を行い,放射線の観察を行った(図14-16)。以下の手順で,生徒達は自ら工作した霧箱を用いて,α線(直線的に見える飛跡)とβ線(縮れて見える飛跡)を確認することが出来た。
1)スチロールケースの底に隙間テープを貼り付け,エタノールを浸透させる。
2)蓋に黒画用紙を両面テープで貼り合わせ,黒画用紙の上にウラン鉱石を配置する。
3)ケースを被せた蓋を下にしてドライアイスの上に置き,ケースをライトで照らす。

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6 アンケートの分析と中学生達の感想

実験授業終了後,次の(1)~(5)の各項目についてアンケートを行った。本稿では,忠海中学校でのアンケート結果のみを報告する。
解析を行った大崎上島中学校での結果と両中学校間の比較については,流通情報工学科の卒研発表会(平成27年1月30日)等でも報告した。
(1)試料の測定や放射線マップの作成などで,原子力発電所だけでなく,身の回りには放射線を出す物質が多くあり,放射線が出ていることを知った。
(2)霧箱の実験により,五感では感知できない放射線の存在を実感することができた。
(3)電子書籍の内容は,放射線について学ぶのに役に立った。
(4)放射線について,どの程度なら安全で,どれだけ被曝すると,どのような影響があるのかが,わかった。
(5)放射線について,興味関心を持っているテーマは何ですか(複数投票可能)。

まず,身の回りに放射性物質が多くあることを知れたと思った生徒は,図17-(1)より,“強くそう思う”が25名(69%)であった。理由欄には,「実際に測ってみて,身近な物から放射線が出ていたことが分かったから」とか「外で色々なものを測定したから」等というコメントが書かれてあった。
図17-(2)より,霧箱実験から放射線を実感出来たと思った生徒は,“強くそう思う”が28名(77.8%)であった。「生まれて初めて放射線を目で見れたから」とか「装置を作って,自分の目で見れたから」,「いつもは目に見えない放射線が,霧のような線で見ることが出来たから」等というコメントが数多く寄せられた。
図17-(3)より,電子書籍の内容が学習に役立ったと答えた生徒は,“強くそう思う”が22名(61.1%)であった。「分かり易く教えて下さったから」とか,「画像や映像を使用して説明してくれたから」等という好意的なコメントが多く書かれていた。
図17-(4)より,放射線の被曝量とその危険性の程度について,わかったと思った生徒は,“強くそう思う”が26名(72.2%)であった。生徒達からは,「250以上あがったらヤバイ」とか,「クイズ式で楽しくできたから」というコメントを得ることが出来た。
(5)の興味があるテーマについては,1位が「人体・環境への影響」と「医学利用」で,「原子力発電等による原子力エネルギーの利用」は最下位であった(図18)。
アンケートの結果より,8日・15日ともに生徒達から大変良好な評価を得られたことが分かった。この結果を踏まえての改善点として,卒研生からは以下の4点が挙げられた。①画像や図があるところは分かり易かったが,放射線の作用の説明の所で難しい説明もあったので,中学生用の分かり易い図解を作成し,より理解し易いように工夫したい。②加えて,専門用語の用語集も作成し,学び易さを向上させたい。③クイズ問題も更に増やし,生徒達により興味を持ってもらえるように改良したい。④最後の自由記入欄に「問題の答えを隠し忘れていたのがおもしろかった」とあったので,次回からはこのような細かい点にも注意したい。また,授業の最後で行った学校紹介では,2人の卒研生に対して,当校を進路先として検討してくれている中学生達から,入試の難易度や進級基準,卒業後の進路等についての質問が寄せられた。卒研生達は,後輩に語り掛けるように,自身の入試体験や入学後の成績やクラブ活動の状況,来春からの就職先について,笑いを誘うトークも交えながら進路説明会さながらの雰囲気で受け答えを行っていた。大崎上島中学校の先生からは,「この子達に,5年後の具体的な姿を見せてあげられたようで良かったです。有難う御座います」との感謝の言葉を頂いた。教員ではなく,実際に教育を受けた卒研生が語り掛けることで,学校の様子がリアリティーを持って伝わったものと思われる。

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7 IEEE広島支部学生シンポジウムでの成果発表

第16回IEEE広島支部学生シンポジウムの論文集に,2人の卒研生の卒研内容の論文2本が審査を経て採択された9-10)。平成26年11月15日(土)~16日(日)に広島市立大学で行われた学生シンポジウム(図19)のポスター発表では,電子書籍をiPadで実演しながら,中学校での実践経験を基にした話の展開や質問への真摯な受け答えで好感を集めていた。また,他大学の先生方(図20-21)や,他高専の学生達(図22)からは,動画やギャラリー機能で放射線について分かり易く解説がされていることへのご好評や中学生向きに安心感を与えられるような内容を増やせばどうかといったご提案も頂いた。

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8 まとめ

指導する教員の側から見て,7月の忠海中学校での実験授業は初めての経験ということもあり,卒研生達は緊張感の中でベストを尽くしていた。特に,2人の学生ならではの親しみある語り掛けは,中学校の生徒達から大変好評で,質問のし易さや話し易さに繋がっており,中学生達がアクティブに学習や実験を進める上で,非常に大きな効果を発揮していた。
実験授業終了後に,卒研生からは,以下の3つの感想を聞くことが出来た。①自分自身,発表してみて感じたことは,自身が放射線について更に深く理解していれば,より分かり易く伝えることが出来たということです。緊張していたこともあって,急いで話してしまい生徒達のペースに合わせることが出来なかった部分もあったので,皆の前で話すときは落ち着いて,周りをよく見て話すことが大切だと感じると共に,人前で話すことの難しさを知りました。②自身も最初は放射線というものに対して悪い印象しかありませんでしたが,学んでいくうちに,放射線は誤れば危険なものだが,正しく使用することができれば,幅広く役に立つことが分かりました。③今後は,高レベル放射性廃棄物の地層処分や再利用可能な廃棄物に対するクリアランス制度等についても解説と練習問題を加えていきたい。
以上のように,実際の教育現場での経験を振り返り,今後の展開も含めて,8月の卒研中間発表を行った。
11月には,IEEE学生シンポジウムでの研究発表を通して,外部の専門家や大学の先生達から貴重なご意見とご好評を得て,当初の緊張感が達成感に変化しつつあるのを,身近で指導していて感じた。
12月の大崎上島中学校での実験授業では,忠海中学校での実践経験や学生シンポジウムでの研究発表を経て,より練度が増しており,本人達も自信と責任を持って,主体的に授業をリードしていけるまでに成長を遂げていた。特に,2人の巧妙なトークは,笑いが起きるアットホームな雰囲気を作り出し,放射線に対する過度の不安や恐怖を解消するのに極めて有効であった。アンケートでも,次のような好評を数多く頂いた。「前までは危ないと思っていたので,今日の授業で学んで安心した」,「とても分かりやすく,おもしろくて楽しかったです!」,「実験する物も自分で作ったり,実際に放射線を目で確認することが出来て,放射線に興味が持てました」,「放射線は福島のことで知っていたけど,身近にあるものだとは思いませんでした。今日の授業で放射線について知れてよかったです」。
以上により,卒研生達は主体性を持つことで,緊張感の中で責任感と達成感を育むことが出来,学生シンポジウムでよう々な方達との議論を通して,客観的に自身の研究に磨きを掛け,最終的には,大崎上島中学校の先生からも高い評価を受けるまでに大きく成長した。教育を受ける中学生にとっても,測定や工作で行き詰まった際に,先輩のような卒研生には質問がし易く,アクティブな学びが捗るというメリットがあった。
今後もこのような,学生が主体的に活躍する過程で,自己を高めながら社会に貢献できる卒業研究の指導を継続していきたい。
なお,完成した放射線教育の電子書籍は,今年度中に専用のホームページ11)より配信する予定である。

参考文献
1)中学生・高校生のための放射線副読本~放射線について考えよう~:文部科学省
2)知ってほしい 今,地層処分:原子力発電環境整備機構NUMO (2013.10)
3)原子力 コンセンサス2014:電気事業連合会 (2014.3)
4)Apple社の「Mac App Store プレビュー iBooks Author」のWebページ, http://itunes.apple.com/jp/app/ibooks-author/id490152466?mt=12, 参照日 (2014.8-14)
5)藤原滋泰, 身の回りの放射線の測定と簡易霧箱の製作による放射線教育の試み : 工学教育, 第59巻 第4号 pp.108-113 (2011.7)
6)篠原望眞, 藤原滋泰, エネルギー環境教育の実験教材とワークシートの開発. 第15回IEEE広島支部学生シンポジウム 論文集 pp.360-361 (2013.11)
7)松永和樹, 藤原滋泰, 数学の学習到達度試験対策の電子書籍の開発. 第15回IEEE 広島支部 学生シンポジウム 論文集, pp.335-337 (2013.11)
8)平野桃子, 松浦歩, 藤原滋泰, 物理の学習到達度試験対策の電子書籍の継続的開発. 第15回IEEE広島支部 学生シンポジウム 論文集, pp.340-341 (2013.11)
9)田淵友也, 藤原滋泰, 馬場弘明. 放射線教育の電子書籍の開発と中学校での教育実践. 第16回IEEE 広島支部 学生シンポジウム 論文集, CD-ROM : A-62.pdf (2014.11)
10)梶井一志, 藤原滋泰, 瀧口三千弘. 物理の学習到達度試験のためのインタラクティブな電子書籍の開発. 第16回IEEE 広島支部 学生シンポジウム 論文集, CD-ROM : A-64.pdf (2014.11)
11)開発した電子書籍の専用の配信ホームページ,
http://dep.hiroshima-cmt.ac.jp/~general/staff/fujiwara1.htm, 参照日 (2015.1-5)

(公開:平成28年5月)

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