国立広島商船高等専門学校
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地域貢献と学生教育

人材育成の視点からの社会貢献活動と学生教育の意義

長谷川 尚道(地域連携コーディネーター)

概要 2050年には日本の総人口は現在より3000万人減少し,超高齢化そして急激な人口減少社会を迎える。「2050問題」とされるのがこれである。ところが私たちの住む離島大崎上島町では,既に超高齢化,急激な人口減少は始まっており,この離島社会の課題に取り組むことは,日本の将来社会における課題の取り組みのモデルとなると考える。
「2050問題」は今まで経験したことのない社会現象が生じ,それに対応し得るかを危惧することにある。であれば叡智を結集して目標像をたてその実現に向かってプログラムをつくる。住む人の満足度に近い理想像をつくり,それに近づける手法が現実的である。そしてこの鍵を握るのがそこに住む人である。さらに,その地域に住む人だけでなく,その地域に育ち,あるいはその地で教育を受けた人々も地域を支えてくれる。それ故若き時代を過ごし,本島に生れ育ち故郷を思う人,この地にゆかりをもった人の愛郷心を培って困難な社会問題にも対応できる人材育成を目指そうとするものである。

キーワード 社会貢献/地域人材育成/地域課題解決/学生教育/2050問題

1.はじめに

1.1 2050年問題

日本の現状を言うとき「人口の減少」「高齢化」「地球的規模の環境問題」等があるといわれる。しかし,こうした現状が具体的に何時私達の生活に致命的な影響を与えるのかはなかなか言おうとしない。
そこで,人口の減少に関して言えば,日本の人口が1億人を切ると予想され,また想像可能範囲の限界とされる「2050年」を区切りとして,予見し諸施策を立ててみようとする手法がある。いわゆる,『2050年問題』とされるのがこれである。
ところが,私達の住む大崎上島町では,以下に記載するように、我が国の「2050年問題」を先取りした現象が発生している。
○商業,医療,文化施設などの空洞化(かつては栄えていた)が進み,今では島から都心部やその郊外のショッピングセンターへ行っている。
○現在の建物がそのまま放置され廃墟的空き家が増えている。
○過疎化が進み,周辺住民は激減し,独居老人,老世帯夫婦が多くなってきている。
○公共交通は便数も減り,運転間隔が長くなり移動は1日数回と限定的となる。高齢者の移動は困難となり医療機関の受診,買い物もままならなくなってくる。
○地域コミュニティは人手不足で最低限を維持するのが目一杯で個人への依存度が増し,また最低限の維持が困難な集落も生れている。


図1.我が国の人口の長期的推移[1]

1.2 2050年問題への克服への試み

それ故に,この大崎上島の離島課題を克服することは、日本の「2050問題」を克服することになると言える。ともあれ2050年問題の本質は日本の人口が減少し,未だかつて経験したことのない様々な社会現象が生じ,それに対応出来ないことを危惧することにある。
であれば,起こりうる事象を想定してこれを克服ないし,克服できそうな目標を立てそれに近づけてゆく手法(都市研究ビジョン研究会答申引用)が現実的と考える。そして,この理想像ないし目標像を立てることに多くの人々の叡智を結集する手立てを考えることが肝要である。その鍵を握るのが地域に住んできた人達の体験と経験に裏打ちされた人々の感性であり人々の知恵である。


図2.我が国の人口構造の推移[1]

1-3 地域課題解決の視点からの人材育成-離島における人材育成の必要性

(1)学生が地域課題を学ぶことの意義
社会問題の解決には,明確なビジョンと強い意志をもって地域コミュニティの人々をまとめ課題に対して忍耐強く継続的な取り組みができる人材(リーダー)が必要である。また,その地域の人だけでは課題の解決はできない。その地域で育ちあるいは教育を受けた人々も様々な事由で他の地域に移住したのであって,関わり縁を持った人のネットワークが地域を支えることも見逃せない。
その意味で,本校で学ぶ学生にとって基本的な知識・技術を確かなものとした上で,それらを活用して応用力・創造力を培うために、可能な限り地域課題を取り入れた実践的な教育を受けることは意義深いものがある。
(2)社会貢献における活動の評価
社会貢献とは,団体,個人による公益又は共益に資する活動一般を意味する。学校にある知的,物的資源を活かし,地域社会を活性化させようとするものである。それ故,社会貢献活動を通して、学生は自主性・自発性に加えて、他者理解力・課題解決力・マネジメント力を身につけることとなり,将来,社会的において活躍できる能力を備えることが期待できる。
本校の社会貢献活動分野は多岐にわたり,対象者も一般住民から,高齢者,産業関係者など幅広く,活動内容も国際交流,理科技術教育支援,環境美化,地域人材育成などがある。ここで大切なことは,学生,教職員がどのようにして活動を評価していくかである。それを繋げるのが,活動レポートである。活動レポートは「自分が行った活動をどのように表現し,伝えるか,又そのことをどの様に捉えたか,その意味をどのように考えたかがわかり,更には自分を客観的に見ることが可能となる大きな役割を果たす。

2.地域活動の実績

2.1 地域活動の記録

こうした点を踏まえつつ,一年間にわたり次のような活動を行った。
(1)地域活動の内容
①産業振興交流会関連
企業合同説明会の開催(参加企業12社)
・本校学生及び大崎海星高校生を対象に,県内企業の人事担当者による講演,相談を実施した。(参加人員100名)
第1部 講演「企業が求める人材」と題して実施(6社)
第2部 個別ブース説明・相談(12社)
・参加者全員のアンケートを実施し,学生による評価を集約した。又,この結果1名の学生が地元企業に就職,リハビリ機器の研究が出来ることになった。
先端企業見学会
・島内企業,高専教職員が先端技術を学ぶため実施した。今回は超高密度ナノバブル発生装置の製造とナノバブル解析測定器を有する㈱ナノクス(北九州市)を視察した。(参加者20名)
・視察後同社と本校の間で共同研究が成立した。
企業懇談会
・会員企業を中心に訪問し,企業の抱える技術相談や経営などを懇談し,本校のシーズとのマッチングが図れることでイノベーションの創出を目的として実施した。(訪問企業9社)
・技術相談2件があった。卒業研究への利用等に活用した。
②民間企業との共同研究等
社会基盤開発が海上交通環境に及ぼす影響に関する評価手法の研究
・中電技術コンサルタント㈱と商船学科研究グループの共同研究により第二音戸大橋建設に伴う船舶用レーダ映像障害に関する調査を実施するとともに,レーダ画像変換装置の開発を行った。
・開発したシステムにより,レ―ダ映像の虚像調査音戸瀬戸海域で行い,レーダ映像の検証を行った。
音楽リハビリテーション支援システムの開発
・㈱ネクサスと岩切研究室の学生とにより,テレビで絵と音楽に手と腕を動かすことにより認知予防や上腕,上肢のリハビリに役立てるシステムを開発し,製品化を目指し研究している。
・大崎上島町内及び広島市内の老人施設で試作品の体験を実施し,データ収集し改良を加えている。
コミュニティデザインを描く島の集落マップ作成
・NPO法人「かみじまの風」と本校学生とにより,大崎上島の人口減少が著しくコミュニティ機能を維持できない集落が出て久しい状況を把握し,集落の資源を再発見するため調査し集落マップを作成している。
・今後は,島内の地域コミュニティ形成・集落再生と併せ研究する。
竹を使った万華鏡の製作教室
・公益財団法人マツダ財団の助成金により,今井研究室の学生が,大崎上島に群生する竹と電子をコラボレーションした万華鏡のものづくり体験教室を開講した。地元小中学生にものづくりを通じて,理工学分野への興味付けを与える活動を行うことを目的としたものである。
・講座の実施により,小中学生に「ものづくり」の楽しさや「電子回路」の必要性を知ってもらうことができた。今後も「ものづくり」「理科」教室等を開講していく。
③地方自治体,諸団体等
赤潮発生時のデータ観測システム
・西海区水産研究所の協力を得て,芝田研究室を中心に研究グループを構成して,赤潮の状況を把握し被害を最小限におさえるための観測システムの開発とこのシステムの効果的な活用に係る一連の研究を行っている。これまでに、赤潮の位置情報と周辺情報を送信するシステムの開発を行った。
・現在、八代海を中心に研究しているが,当然,瀬戸内海においても適用が可能である。八代海の漁協から大いに期待されているプロジェクトである。
原子力討論会
・日本原子力学会シニアネットワーク連絡会と地域交流センターの共同で「2030年代原子力発電の廃絶が可能か?」のテーマで本校学生26名,地域住民12名が参加して行われた。
・討論の結果を学生がまとめ卒業研究への活用などに使用した。
環境保全に関する環境学習・啓発及び地域活性化協働事業
・広島県三原市と本校教員によって環境保全・環境学習を通じ地域活性化に資するため「海辺教室&さざなみ体験」と銘打ち「廃棄物を使った科学工作とエネルギー環境講座」,「本校オリジナル潜水艦の製作とエネルギー環境講座」など三原市内の小学生を対象に本校技術支援センター職員,学生の協力により抵抗や無駄の削減が省エネにつながることを体験させるなどの講座を実施した。
・ペットボトルや段ボールを使って広島丸の体験航海など織り交ぜた講座は人気があり,今後は大崎上島町など海辺をもつ他の自治体の小中学生も対象に,展開することとしている。

3.まとめ

地域活動から見えるもの

(1)地域づくりに必要な人材
社会問題の解決には,明確なビジョンと強い意志をもって地域コミュニティの人々をまとめ,課題に対して忍耐強く継続的な取り組みができる人材(リーダー)が必要であると述べた。まず,地域づくり・人材育成するリーダーにとって大切なことは,ヒト,モノ,カネ情報について論理的なつながりを意識してほしいことである。この要素を連動させることで地域課題が「見えやすくなり」「実現が可能かどうか」「どんな方向性をとるべきか」「どのあたりとコミュニケートすべきか」などのビジョンが明確となる。
しかし,一朝一夕でこうした人材が育つものではない。先ず隗から始めよで,地域づくりのマナー等基礎的なコトから地域で実践するうえでの応用力,といった段階を踏んで取り組むことが肝要である。その意味で本年度の活動内容は全体的に見て初動期のものが多かったように思う。次年度は自らの地域で実践する上での応用力を身につけるものを多く取り入れたい。
(2)「地域で学び」「地域に学ぶ」「地域で育つ」
学校にとって中核をなすものは教育であることは言を俟たない。地域貢献活動も教育の一環である。ここに単にボランティア活動と言う概念で学生が安易に参加することが相応しいのか考える必要がある。その意味で教育の一環として基本的な知識・技術を確かなものにし、応用力・創造力を培うために、地域課題を可能な限り取り入れて実践的教育を行うことは、「地域で学び」「地域に学ぶ」「地域で育つ」学生による地域貢献活動は当を得た取り組みであったと思われる。今後もこうした方向で継続する必要がある。
(3)地域活動の大切さ
最後に地域活動で大切なことは,活動内容を学生,教職員がどのように評価したかである。学生が主体的に参加したのか,参加して人と人とのつながりができたか,人に感謝され,尊敬の念でみられたかなど個人の経験,とくに自分にとってどんな意味と感動があったかを知っておく必要がある。それを表現し,伝えられるのは活動レポートである。今後は学生による活動レポートの作成により,活動の質的転換が図れることを大いに期待するものである。

参考文献

1) 国土交通白書2013:第1節 若者を取り巻く社会経済状況の変化(1)人口構造の変化

(原稿受理:2014年2月 公開日:2014年3月15日)

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