国立広島商船高等専門学校
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江田島サイエンス教室

江田島青少年交流の家でのサイエンス教室と学生による教育実践

藤原 滋泰(流通情報工学科),馬場 弘明(地域連携コーディネータ)

概要 江田島青少年交流の家にて,小学校4・5・6年生とその保護者を対象としたサイエンススクール(平成27年6月20日~21日)を実施した。初日は,「測ってみよう,見てみよう,身近な放射線」と題して,放射線について正しい知識を身につけるための講義と実験を行った。2日目は,「体験してみよう!エネルギーを“創る”“溜める”“上手に使う”」という題名で,科学工作やエネルギー実験を通した低炭素化社会に向けた基礎的な意識づけを行った。両日ともに,本科と専攻科の学生達が意欲的に教育実践を行い,小学生達に対して,質問し易く,アクティブな学びが捗るという効果がもたらされた。

キーワード 放射線教育/電子書籍/霧箱の工作/エネルギーの実験/低炭素化社会

1.はじめに

現在,我々は様々な方法で発電したエネルギーを大量に消費し,便利で快適な生活を維持している。しかし,小資源国である我が国の一次エネルギーの9割以上は,外国からの輸入による化石燃料によって賄われており,発展途上国におけるエネルギー消費が人口の増加に伴い急激に増加している状況下で,エネルギーの安定供給は重要な課題となっている。
様々な発電方法の中で,原子力発電はCO₂を排出せず,発電コストに優れ,エネルギー資源の多様性を確保する上でも必要な準国産エネルギーとして分類されている1)。安定供給のためのベストミックスを目指して,平成27年8月に川内原子力発電所の新規制基準1)での再稼働が始まったこともあり,深く関連する放射線についての正しい教育が求められている2)。また,エネルギー消費起因のCO₂濃度の上昇による地球温暖化問題は,全世界で対応しなければならない地球規模の課題となっており,それに対するエネルギー教育も必要とされている。
このような背景を踏まえ,小学生とその保護者の方達に対して,初日は,原子力に深く関わりがあり,実際に危険ではあるが,正確な知識が無いまま過度に恐れられていると思われる放射線について実験授業を実施した。2日目には,科学工作やエネルギー実験を通して「低炭素化社会に向けた基礎的な意識づけ」を行った。両日ともに,本科と専攻科の学生達が意欲的に教育実践を行った。
以上の小学生を対象とした取り組みに対する,特徴や教育上の効果,学生達にとっての教育的成果等について報告する。

2.測ってみよう,見てみよう,身近な放射線

2.1 教育の目的

福島第一原子力発電所での事故と放射性物質の拡散,風評被害や偏見,新規制基準と原子力発電の再稼働1),放射性廃棄物の問題3)等が声高に論じられている現在,放射線について,正しい知識を身につけるための教育が強く求められており,文部科学省からも「放射線の副読本」の配布が行われている2)。
そこで我々は,以下の目的の下に,サイエンススクールの初日に,電子書籍を活用した放射線についての実験授業を実施した。
1)卒研で開発したインタラクティブな電子書籍4)-8)を用いた講義と放射線の計測や霧箱の実験を連動させ,“知識の習得”と“実験による体験”を両立させた教育を行い,過度の不安感を解決し,正しい知識と態度を身につけさせる。
2)家庭科同好会の中川学生(流通情報工学科4年生)と福島学生(商船学科2年生)が主体性を発揮する教育実践を行い,“責任感”と“達成感”,“プレゼンテーション能力”を育成させる。

2.2 実践の特徴

過度の不安感を解消するためには,実験による体験だけでは不十分と考え,正しい知識を習得させるための電子書籍「実験の前に知っておきたい放射線の基礎」7)を活用し,以下の特徴的な教育を実践した。
1)2時間という限られた時間の中で,①板書とテキスト・プリントを用いた“知識を身につけさせる授業”だけではなく,②計測実験や霧箱の工作・観察で“興味関心を惹きつける体験授業”だけでもない,①と②を両立した実験授業を,電子書籍を用いて実施した。
2)電子書籍ならではの動画機能やギャラリー機能等をフル活用し,視覚的に理解し易く,印象に残りやすい講義を実験前に効率良く行った。

2.3 電子書籍を活用した放射線の分かりやすい解説

実験授業の導入部では,電子書籍を用いて,自主的に調べた内容も織り交ぜながら,放射線の講義を行った(図1)。
まず,我々は極微量ではあるが,放射線のシャワーを日常的に浴びており,カリウム40を含む食物(干し昆布,干し椎茸,ポテトチップス,ほうれん草,牛乳等)や呼吸により取り入れられるラドンからの放射線,宇宙線や大地からの自然放射線等,放射線は身近な存在であることを説明した(図2)。
その上で,放射線の被曝量と急性障害について具体的な数値を示し,線量限度について紹介することで,過度の不安感の解決に繋がるように配慮した。更に,医療,農業,工業の各分野で,放射線が有効に利用されていることも紹介した(図3)。
また,放射線の“正体”や“性質”について学習するために,“原子の構造や原子核の崩壊”,“電離作用と透過作用”といった物理的基礎についても小学生向けに軽く触れ,霧箱の実験に備えた(図4~5)。

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図1 学生達による放射線の講義風景(スクリーンに電子書籍の内容を投影)
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図2 食べ物に含まれるカリウム40    図3 放射線の工業での応用
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図4 原子の構造について        図5 原子核の崩壊について

2.4 身近な放射線の測定

放射線を出す物質が,私達の身近に沢山存在していることを実感するために,以下の1)~2)の順に“放射線の計測実験”を行った。学生達は,児童達がアクティブに実験に取り組めるように,介入のタイミング等に気配りしつつ,質問しやすい親しみのある雰囲気で,的確な指導を行った(図6~7)。
1)自然放射線の測定:周辺の空気中に,どの位の放射線が飛んでいるのかを測定する。
2)測定試料の放射線測定:湯ノ花,カリ肥料,塩,ランタンマントル等の放射線を測定。

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図6 学生による測定器の使い方の解説  図7 学生による計測実験の巡回指導

2.5 簡易霧箱の工作と放射線の観察

後半は,電子書籍の動画機能(図8)を用いながら,視覚的に分かり易く霧箱の解説を行った後,目に見えない放射線を実感するために,簡易なケース霧箱4)-5)の工作を行い,放射線(α線とβ線)の飛跡を観察した。
以下の1)~3)の手順で,学生達の指導の下,児童達は自ら工作した霧箱を用いて,α線(直線的に見える飛跡)とβ線(縮れて見える飛跡)を確認することができた(図9~11)。
1)スチロールケースの底に隙間テープを貼り付け,エタノールを浸み込ませる。
2)蓋に黒画用紙を両面テープで貼り合わせ,黒画用紙の上にウラン鉱石を配置する。
3)ケースを被せた蓋を下にしてドライアイスの上に置き,ライトでケースを照らす(図10)。

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図8 霧箱の動画            図9 霧箱の工作の様子
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図10 霧箱の実験を指導する学生    図11 観察されたα線とβ線

2.6 ウランガラスを用いたアクセサリーの作成

放射線が身近に存在することを体験するために,ウランガラスのビーズ(図12)を用いたアクセサリー(ストラップ)の作成を行った(図13)。ウランガラスはLAPO社9)より購入し,アクセサリーの部品(丸カン,カニカン,バチカン,9ピン,タッセルスレッド等)は貴和製作所より購入し,同社の制作レシピ10)を参照した。
ウランガラスは,極微量のウランが混合しており,ブラックライトの照射により,図12の右側のような鮮やかな黄緑色の蛍光を放つ。

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図12 ウランガラスの蛍光(右側)    図13 ウランガラスのアクセサリー

2.7 アンケートの分析と小学生達の感想

初日の実験教室終了後,次の(1)~(7)の各項目についてのアンケートを行った。
(1)試料の測定や放射線マップの作成などで,原子力発電所だけでなく,身の回りには放射線を出す物質が多くあり,放射線が出ていることを知った。
(2)霧箱の実験により,五感では感知できない放射線の存在を実感することができた。
(3)電子書籍の内容は,放射線について学ぶのに役に立った。
(4)放射線について,どの程度なら安全で,どれだけ被爆すると,どのような影響があるのかがわかった。
(5)放射線について,興味関心を持っているテーマは何ですか(複数投票可能)。
(6)測って,目で見て,正しく知った結果,放射線に対する過度の不安や怖さが解消された。
(7)ウランガラスを使ったアクセサリー作りで,放射線をより身近なものとして実感できた。

まず,身の回りに放射性物質が多くあることを知れたと思った児童は,図14-(1)より,“強くそう思う”と“そう思う”が計21名(100%)であった。理由欄には,「身の回りに放射線があるなんてビックリしたから」や「呼吸や食べ物など,沢山の物から放射線が出ているので,放射線は恐ろしくないと知ったから」等というコメントが書かれてあった。
図14-(2)より,霧箱実験から放射線を実感できたと思った児童は,“強くそう思う” と“そう思う”が計20名(95%)であった。「はじめて放射線を見て,とてもビックリしたから」 や「自分たちで作ったもので実験することができ,ドキドキと共に学ぶことができたから」,「目で白い煙が出たのを見たから」等というコメントが寄せられた。
図14-(3)より,電子書籍の内容が学習に役立ったと答えた児童は,“強くそう思う” と“そう思う”が計17名(81%)であった。「学校の授業では受けられない放射線の授業が受けられたから」や「今までこんなことを勉強したことがなかったので,勉強できて良かった」,「実験と一緒にやり,楽しく学習できたから」等という好意的なコメントが多く書かれていた。
図14-(4)より,放射線の被曝量とその危険性の程度について,わかったと思った児童は,“強くそう思う”と“そう思う”が計21名(100%)であった。児童達からは,「細かい数字で人間に害が無い数字や,その数字を越えるとどうなるかが書いてあったから」とか,「多くなると大変なことが起きることが恐いと思った」というコメントがあった。
測って,目で見て,正しく知った結果,放射線に対する過度の不安や怖さが解消されたと思った児童は図14-(6) より,“強くそう思う”と“そう思う”が計16名(76%)であった。理由欄には,「今まではよく分からなかったので,怖いと思っていたが,今日勉強したことで,普段の生活では全く問題ないことが良く分かった」や「実際に測り,分かったから」,「資料を見ると,役に立っていることも分かったから」等と書かれていた。
図14-(7)より,ウランガラスを使ったアクセサリー作りで,放射線をより身近なものとして実感できたと思った児童は,“強くそう思う” と“そう思う”が計17名(81%)であった。理由欄には,「ウランガラスが緑色に光ってきれいだったから」や「可愛くて,ブラックライトに当てて光らせ,楽しむことができました」等と書かれてあった。
図15の興味関心があるテーマについては,1位が「人体・環境への影響」で,2位が「自然放射線の存在」であった(図15)。

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図14 アンケート結果(全21校)
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図15 (5) 興味関心について

3.体験!エネルギーを「創る」「溜める」「上手に使う」

3.1 実施概要

2日目は,科学工作やエネルギー実験を通して,創エネ,蓄エネ,省エネを体験し,「低炭素化社会に向けた基礎的な意識づけ」を児童達とその保護者の方々に行う事を目的として,以下の3つの内容を実施した(図16~17)。

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図16 エネルギーについての講義     図17 エネルギーについての実験

1)電気を作るのは疲れる(エネルギーを「創る」)
(ア)火力発電実験
(イ)自転車発電(図18)を体験させる(扇風機)。
(ウ)手回し発電機(台付モータ,磁石,豆電球の数を増やす)24台,ソーラー,風力発電(台付モータ15台,ソーラパネル24枚,光源8機),温度差発電(スターリングエンジン,ペルチェ素子,氷,ロウソク,広島丸,紙皿,台付モータ,豆電球)
2)溜めたエネルギーを要る時に使う(エネルギーを「溜める」)
(ア)蓄電実験(電気自動車)(図19)
(イ)燃料電池実験(手回し発電機で水を電気分解して水素を作り台付モータを回す・燃料電池自動車)
3)少ないエネルギーで便利な生活(エネルギーを「上手に使う」)
(ア)省エネ体験(手回し発電機,LED,豆球,コンデンサー)
(イ)ふわっとハート(図20)
(ウ)ヒートポンプ(モータを使った電化製品)

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図18 自転車発電           図19 電気自動車              図20 ふわっとハート

3.2 アンケートの結果

1)小学生
・自転車で電気を作るのはきつかった。
・豆電球をたくさんつなぐと手回し発電に力が要った。
・線をつなぐのが難しかったけど学生さんがやさしく教えてくれたので良かった。
・ふわっとハートをもっとやりたかった。
・LED電球は環境に優しいことが分かった。
・時間が足りなかった。
2)保護者
・学生さんが大変良く働いていた。
・面白そうなので大人もやりたかった。
・広島の科学館でやったらどうか。
・大変分かりやすくて大人もよくわかった。
・電気のことは苦手だったけど理解できた。
・子供を参加させてよかった。

4.まとめ

初日の「測ってみよう,見てみよう,身近な放射線」では,アンケート結果より,インタラクティブな電子書籍を用いることで,実験前の限られた時間で,放射線についての基礎知識を効率的に分かり易く学習できたことが示された。
さらに,基礎知識を正しく学んだ後に,“計測実験”や“霧箱の実験”によって放射線を体験した結果,過度の不安感が解消されるという大変好ましい影響を及ぼせたことも確認できた。また,小学校では学習しない内容であったこともあり,興味関心を引き立てていたことが,アンケートより分かった。
学生達は,児童達に対して電子書籍を活用した視覚的に分かりやすい解説を行い,アクティブに実験に取り組めるように,介入のタイミングを見計らいながら,丁寧な指導を行った。教育を受ける小学生にとっても,測定や工作で行き詰まった際に,先輩のような高専生には質問がし易く,アクティブな学びが捗るというメリットがあった。2日目の「体験してみよう!エネルギーを“創る”“溜める”“上手に使う”」では,専攻科の学生達は学校の授業で得た知識やこれまでの体験をしっかり身につけており,スムーズな進行ができた。また,照明ライトや燃料電池車など機材が人数分無いものがあったが保護者の方が傍にいてくれたので,初対面の子供たちはスムーズに機材の貸し借りを行えた。内容としては,盛りだくさんのメニューであったが,もっと少なくしてゆっくりやらせた方が良いと感じた。今後の課題としては,メニューのスリム化や説明用語について検討し,小学生の学習内容などについて更なる調査を行うことが挙げられる。
将来的なエネルギー資源の枯渇や電力の安定供給,それに関連する環境の問題が深刻化していく中で,放射線教育やエネルギー教育の充実がますます重要になってくることが予想される。これからも,地域の青少年施設等と連携し,放射線やエネルギーについての体験学習を学生達と協働で推進したい。その際に,学生達が各々の強みや個性を上手く発揮し,経験と自信を掴みながら社会貢献を果たせるような取り組みを継続していきたい。

参考文献
1)原子力 コンセンサス2014:電気事業連合会 (2014.3)
2)中学生・高校生のための放射線副読本~放射線について考えよう~:文部科学省
3)知ってほしい 今,地層処分:原子力発電環境整備機構NUMO (2013.10)
4)藤原滋泰, 身の回りの放射線の測定と簡易霧箱の製作による放射線教育の試み :工学教育, 第59巻 第4号 pp.108-113 (2011.7)
5)篠原望眞, 藤原滋泰, エネルギー環境教育の実験教材とワークシートの開発:第15回IEEE広島支部学生シンポジウム 論文集 pp.360-361 (2013.11)
6)田淵友也, 藤原滋泰, 馬場弘明. 放射線教育の電子書籍の開発と中学校での教育実践:第16回IEEE 広島支部 学生シンポジウム 論文集, CD-ROM : A-62.pdf (2014.11)
7)開発した電子書籍の専用の配信ホームページ,http://dep.hiroshima-cmt.ac.jp/~general/staff/fujiwara1.htm 参照日 (2015.12)
8)藤原滋泰,馬場弘明. 放射線教育のインタラクティブな電子書籍の開発と高専生による中学校での実験授業:日本工学教育協会「工学教育」,63巻6号,pp.82-87 (2015.11)
9)http://lapo.jp/products/list.php?category_id=10 参照日 (2015.12)
10)http://www.kiwaseisakujo.jp/shop/g/greg359a/

(公開:平成28年5月)

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